「ふくの日」には旨みと香りのひれ酒を

「ふくの日」には旨みと香りのひれ酒を

2月9日は「ふくの日」です。

ここでいう「ふく」とは「ふぐ」のこと。世界一の取扱量を誇る山口県下関市ではふぐのことを「ふく」と呼び、「福」と同じ発音であることから、縁起の良い魚として尊ばれています。「ふくの日」は1980年に下関ふく連盟が制定し、2月9日には豊漁と航海の安全を願って、恵比寿神社で祈祷が行われ、南風泊市場では「ふく供養祭」が開催されます。当日は「下関ふくの日まつり」も行われ、即売やオークション、大抽選会が行われ、ふくを求める多くの人で市場が賑わう日でもあります。

ふぐを全国に知らしめることになったのは、明治21年のこと。山口県出身で、下関に縁の深かった伊藤博文がお墨付きを出したことで、それまで毒があるため食べることのできなかったふぐ食を、下関が全国に先駆けて解禁することになったのです。以降下関はふぐの本場としてその名を全国に知られるようになりました。下関にはふぐを扱う料亭が数多くあり、特別な日のごちそうとして定着していきました。

プロでないとふぐが調理できない理由

高級食材としても知られるふぐですが、その食べ方は多様です。

刺身、ちり鍋、唐揚げ、炙りなど、さまざまな料理法で味わうことができますが、ご存知の通り、ふぐは毒がある魚のため、「ふぐ調理師免許」をもつプロでないと料理をすることができません。「ふぐ調理師免許」は、調理師免許を持ち、知識と経験のあるもののみに与えられる資格で、大変難易度の高い資格でもあります。例えば釣りに行ってふぐを釣り上げたからといって、自分で調理することは、危険が伴うため、してはいけないことになっています。ふぐは種類によって毒が含まれている部位も違い、取り扱いに細心の注意が必要だからです。

ふぐに含まれる毒はテトロドトキシンという神経毒の一種です。

実はテトロドトキシンは、ふぐが赤ちゃんの頃には体内にないのです。ふぐの毒は生まれつき持っているものではなく、餌から海洋細菌を摂取することで濃縮・蓄積され、毒を持つようになります。そのため、養殖のふぐの中には毒のないものもあるのだそうです。しかしながら、まだ確立された方法ではないため、実用には至っていません。そうした事も含め、万が一のことがないよう、プロに任せるのが一番だと言えるのです。

ふぐ料理を彩る「ひれ酒」の楽しみ方

プロの手によってつくられる、美しい刺身や旨みあふれるちり鍋、その食感を存分に楽しめる唐揚げなどに色を添えるのは、やはりひれ酒ではないでしょうか。熱々の日本酒に、炙ったふぐのヒレを入れたものですが、ふぐのヒレの旨みがお酒に溶け出した、深い味わいが楽しめます。

ふた付きの湯呑みに、炙ったふぐのヒレを入れ、80度ほどに熱した日本酒を注ぎます。ふたをして待つこと1分。ふぐのヒレから香りが移ったら、ふたを開けて日本酒に火をつけます。30秒ほど待ってからヒレを引き上げ、お酒をいただきます。ふぐのヒレの香りや旨みに、体の温まる1杯です。

自分好みの日本酒でひれ酒を作るのも楽しいですが、本場である下関には、ヒレが入った日本酒のワンカップが販売されています。

下関酒造の造る「とらふくのひれ酒」という商品です。ふぐのエキスなどは使用せず、ふぐの中でも最高級とされるとらふぐのヒレのみを使用。ひれ酒用に仕込まれた専用の日本酒を使い、熱燗にすると香りが際立つようになっています。ふぐの描かれた可愛らしい容器は有田焼。電子レンジで手軽に燗をつけられるようになっています。少し塩を加えて飲めば、旨みがぐっと深くなります。

ふくの日に、ふぐちりを楽しみながら嗜むひれ酒は、身も心もあたたまる1杯。深い旨みや香りに、先人の知恵と努力に思いを馳せるのも、また楽しいのではないでしょうか。飲んだことのない方は、ぜひお試しを。

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