ビターエール:イギリスのパブのビールといえばこれ

ビターエール:イギリスのパブのビールといえばこれ

ビターエール(Bitter Ale)はイギリスのパブで飲めるビールの中で、最も一般的なスタイルです。
特徴はエールの代表選手であるペールエールと被る部分が多く、ビアスタイルガイダンスではイングリッシュ・ペールエールの一分野として分類されています。同じビールでも瓶詰めならペールエールで、樽詰めの生ならビターエールと分けられることもありますが、ビターエールの名で売られている瓶の製品もあります。

しいて言うなら、イギリスのパブで良く飲まれる、少しドライな感じのペールエールといった所でしょうか。

パブで提供されるビターエール

ビターエールの歴史

ビターエールの元になったペールエールは、今から400年ほど前に、イングランドのバートン・アポン・トレントという村で作られました。このビールは高い人気を博しましたが、地方でのみ生産されているペールエールをイングランド中の都市に運んでいては、需要に追いつかなくなっていました。
そこで、都会のパブでも普段から飲めるように、20世紀初頭に生み出されたのがビターエールです。ミネラル分を添加してペールエールを作るのに適した水を作る「バートン化」と呼ばれる手法と、ビールに円熟した濃厚さを加えるクリスタル・モルトの使用法が開発されると、ビターエールはパブにおける主力となるまでに広まりました。

ビターエールの特徴

ビターという名に反して苦みはあまりなく、どちらかというとまろやかな味わいです。ペールエールと比べるとホップのほんのりした苦みがあることから、「ビター」の名前が付いたのかもしれません。
苦みはあるものの、アメリカン・ペールエールのようにホップの味を前面に押し出したものとは対照的な、控えめでつつましいビールです。苦みを損なわない程度に、麦芽の甘みと酵母が作る副産物のフルーツのような香りがあり、非常に飲みやすいバランスの良い味を作り出しています。

冷やし過ぎたり炭酸が強すぎたりすると、持ち味のまろやかな飲みやすさが損なわれてしまいます。温度は常温に近い13℃前後で、炭酸が抜けても気にせずゆっくりとちびちび嗜むのが、ビターエールの一番おいしい飲み方です。時間をかけて飲むことで、温度上昇に伴う味の変化も楽しめます。

項目詳細
原産地ロンドン(イングランド)
発酵の種類上面発酵(エール)
薄い金色~濃い琥珀色
アルコール度数3.8~4.8%
麦、ホップ以外の原料コーン、糖類(カラメル)が使われることがある
最適温度13度
有名な銘柄(海外)フラーズ ロンドンプライド(イギリス)
ヤング ビターエール(イギリス)
ブラックシープ ベストビター(イギリス)
グースアイランド ホンカーズエール(アメリカ)
など
有名な銘柄(日本)サントリークラフトセレクト ビターエール(サントリー)
グランドキリン ビタースウィート(キリンビール)
べアレン ビター(べアレン醸造所)
丹頂鶴麦酒(ローグ醸造所)
など

ビターエールの味

パブで提供されるビールの正しい在り方「リアルエール」とは?

ビターエールに限らず、昔のビールは熟成が進んでいない状態で樽に詰められて出荷されていました。ビールを仕入れたパブは、自分のところでビールを貯蔵し、熟成する時期を見極めて、ハンドポンプでくみ上げて提供していました。

この貯蔵・熟成方法は「カスク・コンディション」という名前で、この方法の元で提供されるエールビールだけが「リアルエール(真のエール)」と認定されています。冷蔵はされないので温度は常温、熟成の時に発生するガスも外に逃げるようになっているので炭酸も弱めです(炭酸の圧力がないからポンプでくみ上げる)。熟成の際にはチョウザメの浮袋から作った「アイシングラス」という物を使用して酵母の沈殿を促進するので、濾過されていないにもかかわらず色は透き通っています。

パブで一番良く飲まれるビターエールは、リアルエールの象徴です。

「常温で炭酸弱め」が最良praveremlondres

「常温で炭酸は弱め」が最良

ぬるくて気が抜けたビールはおいしくなさそうな気がしますが、ビターエールが作られた当時はそんなビールが当たり前でした。つまり、ビターエールは常温で気が抜けた状態がベストになるように作られたビールであり、リアルエールとして飲むのが最もおいしいのだと言って良いでしょう。

瓶や缶で発売されているビターエールも数多くありますが、容器に入れるものは保存性を高めるために、リアルエールとして提供されるものよりも炭酸やアルコール度数が高くなるように調整されています。故に、同じ銘柄でもパブで飲むのとボトルで飲むのは別物になります。

リアルエールは本場イギリスのパブ以外では飲めないのです。

リアルエール存続の危機

リアルエールは発酵の調節や時期の見極めを職人に頼っているので、安定した品質で提供するのは困難です。また、24時間以内に消費しないと酸っぱくなって味が落ちるので、ある程度人気があるパブでないと、廃棄せざるを得ない売れ残りが出てしまいます。

現代のビールは熟成が完了して発酵を抑えた状態で出荷し、炭酸ガスの圧力で注ぐ「ケグ・コンディション」が一般的です。1960年代末にはイギリスでもこちらが一般的になり、カスク・コンディションは絶滅寸前の状態でした。

リアルエールをよみがえらせた消費者団体「CAMRA」

しかし、1971年にリアルエールの魅力に触れた4人の若者が、消費者運動組織の「樽内熟成ビールを守る会(現在はリアルエール運動、略してCAMRA)」を発足すると、数週間のうちに数千人が加盟し、瞬く間に大きな組織に発展しました。この活動により、それまで中小醸造所を買収してケグ・コンディションを普及させていた大手メーカーも、カスク・コンディションを復活させざるを得ない状態になりました。

CAMRAの活動により、現在ではイギリスのパブの90%でリアルエールが飲める状態になっています。メンバーの数は2016年現在で17万人を超え、イギリスだけでなく北米にも広がっています。
年会費を払えばだれでも入会が可能で、指定パブでの代金や特定銘柄ビールの値段が10%程度割引されたり、ビアフェスティバルの入場費が無料になったりする特典があります。

ビターエールの種類

スタンダード・ビター(オーディナリー・ビター)

スタンダード・ビター

ビターエールといえば、基本的にはこのスタイルのことを指します。
色は薄い黄色から薄い銅色で、ライトな飲み心地が特徴です。アルコール濃度は3.2~3.8%と低く、炭酸も弱いので、ビターエールの中では一番飲みやすい部類に入ります。ホップの苦みはありますが、麦芽や副産物の味や香りを隠さない程度であり、飲みやすさを損なっていません。

ピルスナーは苦いし、ペールエールではちょっとくどいと感じている人にとってベストなスタイルです。

スペシャル・ビター(ベスト・ビター、プレミアム・ビター)

スペシャル・ビターblacksheepbrewery

スタンダード・ビターよりも少し濃い目のスタイルで、麦芽の香りと味がよりはっきりしている点が特徴です。アルコール度数も3.8~4.6%と高くなっていますが、それでも一般的なピルスナーやペールエールよりも低く、炭酸の弱さやビターエールらしいまろやかさと合わせ、気軽に飲んでいけるスタイルです。

普通のビターよりももう少しビールらしい味が欲しいと思う人におすすめです。

エクストラ・スペシャル(ストロング)・ビター(ESB)

エクストラ・スペシャル・ビター(ESB)fullers

スペシャル・ビターよりもさらに一段階強いスタイルで、麦芽とホップの香りがはっきりとしてコクがあります。全体的に濃くなってはいるものの、濃い部分で苦みと甘みのバランスが取れているので、きつくて飲みにくいということはありません。ただし、アルコール度数は4.8~6.2%とやや高めです。

イングランドでは「ESB」の名前はフラーズ醸造所の商標ですが、アメリカでは麦芽の味が強くて赤みがかったペールエールで、この名前を名乗っている製品が多くあります。

ゴールデン・ビター(サマー・ビター)

ゴールデン・ビター

ピルスナーのような明るい金色をしたビターエールで、イギリスのダウントンにあるホップ・バック醸造所が1989年に発売開始した「サマー・ライトニング」が最初です。
他のビターでは強く焙煎したカラメルモルトやチョコレートモルトなどの濃色麦芽を少量使うために、やや濃い色をしているものが大半です。これに対しゴールデン・ビターでは色がついていないペールモルトだけで作っています。

味はあっさりめです。

次回はアルコール度数とコクが2倍のベルギービール「ベルジャン・デュッペル」を紹介します。

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