食事を引き立てる純米吟醸・大吟醸酒だけを、 ただ一心に造り続けています ―『玉乃光』玉乃光酒造―(伏見酒蔵四季巡礼③)

灘(兵庫県)、西条(広島県)と並び、「日本三大日本酒の主産地」として知られる京都の「伏見」。この伏見を訪問し、蔵元や蔵人に日本酒の魅力をお聞きする連載企画、「伏見酒蔵四季巡礼」。今回は、日本でも希少な純米吟醸酒と純米大吟醸酒だけを造り続ける「玉乃光酒造」さんにお伺いしました。

業界に先駆けて「純米酒」を復活させたパイオニア

玉乃光酒造は1673年(延宝元)、初代中屋六左衛門が紀州徳川藩の免許を受け、和歌山城の北に位置する和歌山市寄合町の地で酒造りを始めました。『玉乃光』という酒銘は、初代六左衛門以来代々が信仰している熊野速玉神社の主神「イザナギノミコト」「イザナミノミコト」の御魂(玉)が映えるようにとの意味を込めて、宮司より名付けられたと伝わっています。

金環日食をイメージした玉乃光酒造のロゴマーク

金環日食をイメージしたロゴマーク

和歌山から京都・伏見に移転した同社が、業界に先駆けて力を注いできたのが「純米酒」の復活です。

元来、日本酒とは米と米麹、そして水だけを使って醸してきました。その米が不足した戦時中、米以外のアルコールを添加して、増量した日本酒(アル添酒)が販売されるようになり、戦後もスタンダードなものとして流通してきました。しかし、一部の消費者からは、ベタベタした甘さが気になることや、二日酔いになってしまうという声が寄せられていました。当時の宇治田福時社長(現・会長)自身も、日本酒を飲んだあとの二日酔いに悩まされていた一人でした。

そこで、東京オリンピックが開催された1964年(昭和39)、日本酒元来の味わいを復活させようと宇治田社長が中心となり、アルコール、ブドウ糖、防腐剤を添加しない「無添加純米清酒」(純米酒)を独自の技術で開発。「二日酔いしません」というキャッチフレーズも相まって、日本酒を愛する人々から支持を受けるようになりました。1973年(昭和48)には、志を同じくする他の酒造会社と共同で、純米酒の魅力を多方面に向けて発信する「純粋日本酒協会」を発足させました。

同社が純米酒の復活を行ってから半世紀以上経った現在、純米酒は全国各地の酒蔵で醸されるようになりました。まさに、「純米酒」のパイオニアですね。

幻の酒米「雄町」の復活

純米酒を復活させた玉乃光酒造は、日本酒造りの基となる米選びにもこだわり、幻の酒米となっていた「雄町」も復活させました。

雄町は、日本酒を嗜む人なら誰もが聞いたことのある「山田錦」の先祖にあたる酒米。かつては、多くの酒蔵で日本酒造りに用いられてきました。しかし、気温の変化に弱いことや、稲穂の背が高く風を受けると倒れやすいという特性があり、栽培を続ける上でネックとなりました。新たな酒米が開発されるようになっていくにつれ、次第に農家から敬遠されるようになりました。

純米酒造りに舵を切った同社がより良質な酒米を求めて辿りついたのが、雄町発祥の地である岡山市高島地区。そこではまだ少量の雄町が育てられていましたが、酒米でも食用米でもなく、正月の飾りつけ用に使われていました。そこで、同地区の米作りに熱心な農家と特定契約を結び、酒米としての栽培を支援。同地区で育てられた雄町で醸した日本酒を販売するようになりました。消費者からの評判も良好で次第に生産量も拡大し、現在では、コアな雄町ファンだけでなく、多くの日本酒愛好家からも「『玉乃光』=雄町」と呼ばれるほどの看板商品へと成長を遂げました。また、雄町の評価も高まり、岡山県高島地区を中心に、他の地域でも雄町が盛んに栽培されるようになりました。

雄町

岡山市東部・高島地区に広がる田園風景。ここで、雄町が育てられています。

『玉乃光』は、お酒だけでは飲まないでください(笑)

取材に応じて頂いた同社代表取締役社長の丸山恒生さんに、日本酒の魅力について尋ねました。

丸山社長

やさしい語り口で純米酒の魅力についてお話された丸山社長

「日本酒、なかでも純米酒は、作り手の個性や使用する水や米、気候やその年によって味わいのバリエーションが異なる点が魅力です。色々な日本酒を飲んでみて、ご自分の好きな一品を探してほしいですね」(丸山社長)

では、『玉乃光の魅力は?』という質問には、

「『玉乃光』は、お酒だけでは飲まないでください(笑)」

と、ユニークな答えが返ってきた。その真意は?

「『玉乃光』は、食事を引き立てる味わい、飽きの来ない味わいになるようなお酒を目指しています。食中酒として飲むことで、『玉乃光』の魅力がより一層発揮されるんです。ですから、ぜひ『玉乃光』だけで飲むではなく、料理と一緒に『玉乃光』を楽しんでください」

イマ流行の吟醸香の高い日本酒とは一線を画し、料理に寄り添い、飲み飽きない日本酒造りを行っている玉乃光酒造。まさに、家族や親戚が集まる食事の席や、鍋料理を囲むことの多いこれからの季節にぴったりの日本酒ですね。

取材後記

筆者が始めて好きになった日本酒が、アルミ缶の『玉乃光』でした。一口味わった途端に広がるやわらかな香りと米本来の味わいにびっくりしたのを今でも覚えています。取材当日、丁寧に酒造りの話を伝えてくれる生産部長の辻本健さんの顔を見て、「そうか、この方が僕の日本酒好きを開花させた方なのか」と思うとなぜか緊張してしまう筆者でした。

純米大吟醸備前雄町

『純米大吟醸備前雄町』

純米大吟醸備前雄町

雄町米特有の自然なやわらかい香り、天然の酸味と雄町米の旨味が調和した飲み口、ふっくらとした厚みを感じさせるボディーが特徴。いつまでも、飲み飽きない逸品。
720ml/2,300円(税別)

玉乃光酒造株式会社

玉乃光酒造株式会社

玉乃光酒造株式会社

京都市伏見区東堺町545-2
TEL.075-611-5000(代)

ツマガリカツヒコ

ツマガリカツヒコ

日本酒の魅力に参ってしまった30代半ばのライター。日本酒の奥にあるストーリーに惹かれ、主に大阪周辺を東奔西走。知らず知らずのうちに杯を重ねて、ほろよい気分で眠りにつく毎日を過ごしています。

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