様々なビアグラスの特徴と、よく合うスタイルの組み合わせ:変わったグラス編

様々なビアグラスの特徴と、よく合うスタイルの組み合わせ:変わったグラス編

変わったビアグラス

ビールの魅力を引き立てるには欠かせない機能を持つビアグラスですが、機能性があまりない代わりに、面白い形をしたものも多数あります。
その中でも、特に変わった形を持つ物を集めてみました。癖があって使うのが難しいのですが、いずれも長い歴史を持つ伝統的なものばかりです。これらを扱うことが出来れば、立派なビール通であるといえるでしょう。

ビアブーツ

ビアブーツ

変わったビアグラスの中でも特によく見かけるのが、このブーツ型をした「ビアブーツ」です。ガラスの靴ならぬ、ガラスのブーツといったところです。
生まれたのは150年程度前で、1850年代にはこのグラスが使われている写真が遺されています。イギリスのものは、拍車を取り付けるベルトの模様がかかとの部分にあり、飲み口が欠けにくいように銀がかぶせてありました。ドイツのものは拍車ベルトは付いておらず、サイズは倍ほどありました。

第一次世界大戦時には、あるドイツの将軍が兵士たちに、もしも戦いに勝利できたらブーツでビールを飲んでやると宣言しました。戦闘に勝利し、将軍は一度宣言したことをひっこめるわけにはいかず、ガラス職人に依頼してラージサイズのビアグラスを作ってもらいました。それでビールを飲んだので、自分の足の味付きビールを飲まずに済んだいう話もあります。

香りや味を良くする機能は持っておらず、基本的にはパーティー用の面白グッズといった位置づけです。使いにくい上に洗いにくいので、普段使いにするには難がありますが、催し物の際に使えば面白くなることでしょう。
本物のブーツと同じサイズに作ってあることが多いので、大ジョッキか特大ジョッキと同じぐらいの容量があるため、飲みきれるように軽めのビールを入れるとよいでしょう。

このグラスでビールを飲むときは、必ずつま先が下になるようにして飲まなくてはいけません。ついついつま先を上にして飲んでしまいそうになりますが、そうするとつま先の部分に入った空気によってビールが押し出され、飲んでいる最中にあふれて顔にかかったりします。

マス・クラグ

マス・クラグ

マス・クラグは、毎年ドイツのミュンヘンで開かれる世界最大のビール祭りオクトーバーフェストで使われる特大サイズのビアマグです。
容量はなんと1リットル。サイズは高さが20cm、幅が10cm(取っ手を入れれば15cm)、重さは900g、中身をいっぱいまで入れれば2kg近くにもなります。しかも、オクトーバーフェストで飲まれるメルツェンというビールは、3月に仕込んで10月に空ける長期熟成の特別品で、夏の間に腐ってしまわないように、度数が高め(6~7%)に作ってあります。そんなビールを特大ジョッキで飲めるのは、お祭りならではです。

腕力が無い人には2kgもあるグラスを片手で扱うのは難しいので、両手で持って飲むことをお勧めします。クラグの表面には凸凹が付いており、良いすべり止めになってくれます。
重すぎるし1リットルも要らないという場合には、0.5リットルのマスもあります。

パウエル・クワック

パウエル・クワック

実験器具にもみえるこのグラスは、ベルギーのブヒェンハウトにあるボステールス醸造所が作る「パウエル・クワック」というビールの専用グラスです。パウエル・クワックの色は濃い麦わら色で、バナナやパイナップルを思わせる甘い香りと、8.4%という高めのアルコール度数が持ち味です。
元々、このビールは19世紀にパウエル・クワックという人物が作っていたとされています。クワックはベルギー北部のデンデルモンデという町の醸造所でビールを作る傍ら、宿屋を営んでいました。宿屋には、醸造所に水を運ぶ馬車や郵便の馬車が良く寄ってきていました。
クワックはのどが渇いた馬車の御者が、移動中でも馬車から降りずにビールが飲めるように、スタンド用の木枠を備えたこのグラスでビールを提供したと言われています。

度数8.4%のビールを飲んで運転するのは、現代では飲酒運転扱い間違いなしですが、ヨーロッパではビールは水代わりであったために当たり前の行為でした。

ボステールス醸造所はクワックが作っていたとされるビールを、1980年に復活させて作るようになりました。もちろんグラスもセットで作ったのですが、実はこれは復活の際に用意された創作という説もあり、詳細は今一つわからないままです。
このグラスは木枠が無いと倒れてしまって使い物にならないので、グラスと木枠はセットになっているものとして扱われます。

ヤード・オブ・エール

ヤード・オブ・エール

名前の通り長さが1ヤード(約90cm)もある、世界最長クラスの特製グラスです。パウエル・クワックのグラスと似た形状ですが、こちらはイギリス生まれです。
17世紀ごろのイングランドではすでに使われており、「ロンググラス」、「イール(ウナギ)グラス」などと呼ばれていました。作られたのは飲む側の要望というよりは、ガラス吹き職人の技術アピールの面が大きかったようです。一説には、中世のアングロサクソン系民族の文化で、これと同じような容器でビールを飲み干せれば一人前の男と認められた事例が元とされているようですが、実際のところははっきりしていません。

容量は約1.7リットルもあり、これでビールを飲むには相当な技術が必要です。現在はこのグラスのビールを飲み干すまでの時間を競うイベントが開かれています。角度を少しでも間違えれば、流れてきたビールを顔面に浴びることになるので、全部飲みきるにはなかなか高度な技量が必要です。
一応、安全にビールが飲めるようにとても長いストローが付属しているものや、長さが半分のハーフヤードのものもあります。使わない時はスタンドを使うか、ひもやストラップで壁にひっかけたりして保管します。

ビアホーン

ビアホーン

北欧のバイキングが使っていたような、角の形をしたグラスです(バナナではない)。
今のようにガラスが発達する以前は、ウシ、ヤギ、ヒツジといったウシ科動物の角は、飲み物の容器としてよく使われていました。ウシ科の動物の角は、骨から突きだした角に固い皮膚がかぶさったもので、骨の中は空っぽです。角を切り落として中をきれいにすれば、それだけで入れ物が出来上がります。
ウシ科動物以外にも、イルカの一種であるイッカクが持つ槍のような牙も、「ユニコーンの角」として重宝されていました。
現在のコップは「タンブラー」と呼ばれていますが、これは角の容器が支え無しでは倒れる(タンブル)ことが由来となっています。

現代ではガラスやプラスチックの製品も増えていますが、本物の牛やバッファローの角を使ったものも根強い人気があります。スタンドで立てかけられるものの他、革製のストラップでベルトに吊り下げられるものや、先端を平らに切って机に置けるようにしたものもあります。
飲み口が広めで底が深く、角度によって飲むときの勢いが強くなるグラスなので、ピルスナーのように爽快でゴクゴク飲めるスタイルのビールに適しています。

変わったビアグラスは使いやすさはほとんどなく、普段用というよりはパーティーやお祭りといった、特別な機会向けのものが大半です。一人で使っていても面白くないので、人が集まるときにお披露目すると、受けること間違いなしでしょう。
見ている分には面白いので、コレクションとして収集する価値も十分です。普段は飾っておいて、特別な時に使うのが基本になります。

グラスは美しいのみならず、ビールの味や香りを変化させる「道具」でもあります。ビールのスタイルごとにふさわしい形のグラスを使えば、ビールの持っている魅力を最大限まで引き出し、最も良い味と香りを楽しむことが出来ます。ビールとグラスはセットであり、切っても切り離せない関係にあります。
色々な形のグラスを集めれば、多様な種類のビールを楽しめるだけでなく、コレクションとしての価値も生まれてきます。ずらりと並んだ様々な形状のグラスは、自他ともに認めるビールの達人の証となるでしょう。

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