山の水と地元の果物、ドイツの技術でビールを作る:福島県のクラフトブルワリー

山の水と地元の果物、ドイツの技術でビールを作る:福島県のクラフトブルワリー

福島県のクラフトブルワリー

日本第三位の面積を持つ福島県は、盆地、山岳地帯、高地、平野、海岸など様々な地形を有する、自然が非常に多い県です。こうした地理条件によって、地域ごとに特色がある文化や産業が育まれています。
福島のクラフトブルワリーは、県の中央部を南北に横切る中通りの地域に居を置いています。この地域には磐梯山や吾妻山といった火山があり、雨水が火山性の地層を通って磨かれることで湧水となるのでビールの仕込みには非常に良い場所です。

また、中通りの北にある福島盆地は日本有数の果実生産地として有名で、ブルワリーもここで生産される果物を使ったフルーツビールを多く作っています。
2011年の東日本大震災に伴う原発事故の際、福島の農業は出荷停止や風評被害によって大きな被害を受けました。しかし、それでもめげることなく、むしろ復興を促進するのだと言わんばかりに、この時期からビールの品数が増やされています。

おいしいビールは何があってもおいしいのだと、福島生まれのビールは強く実感させてくれます。

猪苗代ビール

猪苗代ビール

猪苗代ビールは、株式会社親正産業株式会社が運営する「世界のガラス館 猪苗代店」で製造されているビールのブランドです。世界のガラス館はクリスタルや天然石のアクセサリー、ヴェネチアンアクセサリーやガラス細工、クリスタルグラスなどを展示している施設です。展示ばかりでなくガラス吹きで自分のグラスを作る体験もすることができます。

猪苗代ビールを作っているのは施設の二階にある「地ビール館」で、レストランが併設されています。店内では樽生ビールが飲めるのはもちろん、バッファローチキンウイングやハンバーガーなど、ビールと相性の良いメニューが揃っています。中でもおすすめなのが、ビールとの相性が最適になるように作られた特製ソーセージです。

ビールは地元の磐梯山から湧き出る天然水と、ドイツのフランケン地方産の麦芽、ホレダウ地方のホップを使い、ドイツの「ビール純粋令」に従って一切の副原料を使用せずに作っています。醸造設備は世界最古の歴史を持つドイツのカスパー・シュルツ社製のもので、醸造技術もドイツ仕込みです。
製品は330ml瓶以外に、500ml瓶と1l瓶でも販売されています。1l瓶は開けてからも保存しておけるように栓が付属しているのが特徴です。
2015年からラベルのデザインが、「17846(イナワシロ)」の数字と、猪苗代湖に渡ってくる白鳥をあしらったものへと一新されました。

驚くべきはその高い実力。国際ビール大賞において2007年から2012年まで、ほぼすべての銘柄が毎年のように受賞しています。日本のクラフトビールの実力が高くなった現在ではなかなか受賞は難しいようですが、2014~2016年もアジア・ビアカップやインターナショナル・ビアカップで「ラオホ」「ブラウンヴァイツェン」が入賞するなど、その健在ぶりを示しています。

銘柄味の印象
ピルスナー
(ピルスナー 5%)
日本人に一番なじみが深いジャーマンピルスナー。ピルスナーはおそらく世界で最も多く作られ、銘柄も多いスタイルですが、猪苗代ビールのピルスナーはそれらを押しのけて2007年から2012年まで国際ビール大賞で毎年受賞し続け、「うまい」ビールであることを証明しています。水色の「1」ラベルが目印。
ヴァイツェン
(ヘフェヴァイツェン 5%)
日本のクラフトビール界にすっかり定着したドイツ産白ビール。世界的に見ても人気が高いスタイルで数も多いのですが、ピルスナーと共に幾度も勝ち抜いて賞を手に入れている、確かな実力を持つ銘柄です。ラベルは白地に赤で「7」が記されています。
ブラウンヴァイツェン
(デュンケルヴァイツェン 5%)
こちらはローストした麦芽を原料に追加した褐色のヴァイツェンです。他のブラウンヴァイツェンと異なるのは、燻製にした麦芽も追加している点で、南国の果物のような甘い香りに、カラメルのような香り、わずかなスモーキーさが合わさり、また違ったふくよかさを作り出しています。ラベルはオレンジに「4」。
ゴールデンエンジェル
(ピルスナー 5%)
ピルスナーモルトとカラメルモルトをブレンドして、やや深めの味と重量感を持たせたビールです。強めの炭酸とドライさに、華やかな香りを持たせた豪華な味が特徴となっています。金色の美しい見た目と、赤いラベルと金色の「8」のめでたい組み合わせは、贈り物にもピッタリです。
ラオホ
(ラオホ 5%)
日本では少数派の、ドイツ発祥のスモークビールです。麦芽に熱を加える際に、ブナのチップを燃やした煙に直接さらすことで燻製にしているのが特徴で、口に含むと口の中が煙の香りであふれます。ラベルは黒字に金色の「6」です。

みちのく福島路ビール

福島路ビール

福島路ビールは社長の吉田さんのご家族で営む小さなブルワリーです。社員は従業員2名と数名のパートだけですが、多数の通年商品を用意し、イベントにも積極的に参加して併設店も経営するなど、精力的な企業活動を行っています。

工場併設店「PROST(プロースト)」では蔵出しの樽生ビールが常に4種類用意されており、何が飲めるかは醸造のスケジュールや季節によって異なっています。瓶ビールでも注文できますが、ジョッキの方が安くて新鮮な味が楽しめるのでお勧めです。
料理はソーセージやプレッツェルといったドイツ風メニューと共に、枝豆やくんたまなど日本になじみのある品も用意されています。もちろんビールのお持ち帰りも可能です。

ビールの材料は、吾妻山由来の湧き水、ヨーロッパ産の大麦、チェコ産のホップ物、ドイツ産の酵母で、桶ごとに手作業で仕込まれています。フルーツビールの場合、材料の果物には福島県伊達市の伊達農園でとれたものを使用しています。一部の製品は貴重で旬の短い果物を使用しているため、特定の季節にしか作られない限定醸造品となっています。

また、東日本大震災からの復興を願った「東北魂ビールプロジェクト」として、新しいメニューが数量限定で醸造されています。2017年2月の時点では、第6弾であるアメリカンIPAが醸造されていました。これからも元気な東北魂を忘れないために、定期的に新規開発が続けられていくと思われます。

銘柄味の印象
ピルスナー
(ピルスナー 5.5%)
苦みが強めで重厚なボディを持ち、大手のスッキリ爽快なピルスナーとはまた一味違った濃い目の味わいがあります。普通のピルスナーよりも、肉や卵などを使った料理によりマッチしやすい雰囲気です。
デュンケル
(デュンケル 5%)
ドイツ語で「暗い」という意味の濃色ビール。ロースト麦芽を使ったビールはややカラメル風の味がしつこくなる場合がありますが、このデュンケルでは麦芽の味を前面に出しつつ甘ったるさを排したキレのある味わいになっています。
ヴァイツェン
(ヘフェヴァイツェン 4.5%)
女性に人気の、甘い香りと味わいの白ビール。小麦のたんぱく質によって霞がかかったような濁りがあります。苦みがほとんどないのが特徴で、レモンを入れてもおいしく飲める味です。
レッドエール
(レッドエール 5%)
ローストした酵母を使用した赤褐色のエールビール。濃い見た目に反して苦みが抑えられ、なめらかな喉越しを持つすっきりとした仕上がりになっています。
米麦酒(マイビール)
(吟醸ビール 5.5%)
福島県産米「ひとめぼれ」と福島県オリジナルの清酒酵母「うつくしま夢酵母」を使用して作ったビール。清酒酵母が生み出す吟醸香と米によるまろやかな味が特徴で、ラガーのスッキリ感ともエールの華やかさともまた違う、日本らしい穏やかさを持つビールになっています。
ザ・リッチビター
(ビターエール 5.5%)
カスケードホップを多めに使うことで、柑橘のような華やかな香りを持たせたビールです。IBU(国際苦み指数)は45.7と、ピルスナーの21や米麦酒の17に比べると格段に苦いビールです。しかし、決して嫌な苦みではなく、むしろ心地よさを与えてくれる良い感じを持ちます。
ピーチエール
(フルーツビール 6%)
福島の特産の一つである桃を使ったフルーツビール。桃の甘さだけなく、香りや味を含めたすべてが表現されたビールです。麦芽の使用率は25%と低めですが、意外とビールらしいモルティな味もします。
林檎のラガー
(フルーツビール 6%)
震災後の風評被害に苦しむ果樹農家のために作られた、リンゴのフルーツビール。強めの炭酸と甘すぎない味わい、リンゴの酸味がシードルのような飲みやすさを作っています。
桃のラガー
(フルーツビール 6%)
ピーチエールと同じように桃の果汁を原料に使っていますが、こちらはラガービール。エールよりも味があっさりとして軽く、ドライな雰囲気に仕上げられています。

限定醸造品

銘柄味の印象
なつはぜふるーてぃエール
(フルーツビール 6%)
なつはぜはブルーベリーに似た小さな紫色の実を付ける植物で、ブルーベリーと同様にジャムや果実酒に使われます。ペールエールのような明るいオレンジ色に、ロゼのシャンパンのような軽い口当たりが特徴です。
黄金桃のリッチエール
(フルーツビール 6%)
黄金桃は福島産の希少な品種の桃で、北のマンゴーとも称される香りと甘みを持ちます。収穫は8月下旬から9月で、収穫期が短いために、果汁を使ったビールもこの期間だけの限定品になっています。ピーチエールよりも甘みと桃らしさが前面に出されたリッチなビールです。
ゼネラルレクラールラガー
(フルーツビール 6%)
ゼネラルレクラールは洋ナシの一種で、明るい黄色をしているのが特徴です。果汁が多くリンゴのような軽い酸味があり、フルーツビールの材料としてふさわしいナシといえます。出回りは10月ごろからで、ビールも秋限定です。

ななくさビーヤ

ななくさビーヤ

ななくさビーヤは有機農園「ななくさ農園」を営む関元弘・奈央子ご夫妻が、農閑期に醸造を行っているブルワリーです。零細のクラフトブルワリーのことをマイクロブルワリーと呼びますが、それよりも更に小さなナノ(ナノはマイクロの1000分の1)の名を冠している所に、小さいブルワリーであることへのこだわりを感じます。

元弘氏は農水省のキャリア官僚出身の方で、農家の暮らしにあこがれて有機農業を始めました。ビールの醸造を始めたのは、東日本大震災で影響を受けた福島の農業の復興のためだそうです。
規模の小ささから現在は発泡酒(フルーツビール)の醸造免許しか得られていないのですが、将来はビールも醸造できるように頑張っていきたいとのこと。

材料に使う麦とホップはすべて農園で作ったもので、副原料として使用する果物は地元の農家から取り寄せた、まごうことなき100%福島産ビールです。
個人営業の超零細ブルワリーということで、温度管理設備もないので桶に毛布を巻くなどの工夫で、発酵を調節しています。冷蔵設備や密封タンクなどが無い時代にはこうした方法が普通であったため、ななくさビーヤの醸造法は実に本格的であると言えるでしょう。
原始的な方法のため、他の洗練された設備を持つブルワリーのビールよりも、「味が多い」と形容されるビールとなっています。

そしてなんといっても印象に残るのがラベルの可愛さです。ラベルに描かれているのは奈央子氏が昔から愛用してきたキャラクターの「ビーヤ」で、ななくさビーヤの名前もこのキャラに由来します。グラスにひっついた可愛らしいビーヤの姿は、クールさや渋さを求めた他のビールのデザインとは全く違う、なんとも癒される雰囲気を出しています。

銘柄味の印象
柚子
(フルーツビール)
ゆずの果汁を使った日本ならではのフルーツビールです。他のブルワリーの製品で、ゆずの「皮」を使ったものはありますが、果汁を使ったものは殆どありません。甘すぎず引きしまった味わいが持ち味です。
洋ナシ
(フルーツビール)
洋ナシを作っているのは日本では東北以北の地域だけで、福島ならではのフルーツビールといえるでしょう。甘みがありますが、洋ナシと共に酵母が出す複雑な香りと合わさり、「味が多い」ビールになっています。

(フルーツビール)
世界はおろか日本でも非常に珍しい柿のフルーツビールです。スタウト風の黒ビールで、柿は隠し味の様に酵母や麦芽の味に混ざって、複雑なビールの味を構成しています。
ネーブル
(フルーツビール)
こちらもちょっと珍しい、ネーブルオレンジを使った製品。オレンジは一般的な果物で、ベルギーの白ビールはオレンジピールを使いますが、オレンジそのものを使ったビールというのは、実はあまりない貴重な存在です。

次回以降は東北を離れ、関東のクラフトブルワリーを紹介していきます。まずは福島と県境を接する、栃木県のクラフトブルワリーを見ていきましょう。

お酒の雑学カテゴリの最新記事