月山の良水で作るビール:山形県のクラフトブルワリー

月山の良水で作るビール:山形県のクラフトブルワリー

山形県のクラフトブルワリー

山形といえば温泉と果物、そしてお漬物。冬が厳しい環境のために保存食文化が発達し、お酒のあてに事欠かない味覚が揃っています。
何より重要なのが、酒の仕込みに適した良質な水が豊富な事です。水源は県の中心部にある月山で、豊富な雪解け水が火山層に浸透して山麓から湧きだし、山形を全国有数の湧き水・温泉地にしています。
この水は山麓のブナ林の中で400年間も滞留して磨かれることにより、適度なミネラル分を含んだ高品質の軟水で、非常に良質で有名です。

山形県は県内に54もの清酒酒造があり、さらにはブドウの産地でもあることから12のワイナリーが存在しています。ビールが入り込むにはなかなか厳しい環境であり、山形のクラフトブルワリーは何らかの企業が事業の一部として行っている所が主体です。流通量も少なく、なかなか目にすることができません。
しかし、決して品質が悪いということは無く、むしろ売りに出せば相当な人気が出ることをうかがわせる品が揃っています。知る人ぞ知るレア物といったところです。また、果物王国であることから、フルーツビールをメインにしている企業が複数ある珍しい県となっています。

地ビール 月山

地ビール 月山

「地ビール 月山」は西川町が第三セクター方式で設立した西川町総合開発株式会社が保有するビールブランドです。
フルーツビールを主力にするブルワリーが多い山形にあって、月山のビールは副原料を使用しない硬派なドイツ風を貫いています。設備や材料は全てドイツとチェコからから輸入した物で、醸造技術もドイツから技術者を定期的に招いて研鑽を続ける徹底ぶりです。

定番ラインナップはピルスナーとミュンヒナーの二種類だけですが、季節ごとに期間限定品を醸造しています。
ボトルは通常の330mlの物の他、ちょっと珍しい500mlの物があります。ビールでは500mlの物はやや珍しい方です。形が一升瓶を小さくしたような感じで、ラベルも渋いデザインです。山形のビールの中では流通量が多く、通販で買うことも出来ます。

銘柄味の印象
ピルスナーピルスナーは日本で最もよく知られているビールのスタイルです。月山のピルスナーは酵母を濾過していないので濁りがあり、それが強すぎる苦みやキレを抑え、飲みやすい味を作っています。山形名物の芋煮、玉こんにゃくと一緒に味わいたいビールです。
ミュンヒナーこちらはローストした麦芽を使った濃色のラガーです。製法はデュンケル(ドイツ語で暗いという意味)ビールに近いのですが、色は赤と表現するべき鮮やかな物です。苦みが弱くて濃いため、こってりした料理との相性が良好です。

天童ブルワリー

天童ブルワリー

天童ブルワリーは天童温泉のいちらくグループが保有するブルワリーです。温泉旅館が経営する珍しいブルワリーで、宿泊してくれるお客さんをビールでもてなしたいという思いから醸造を開始するに至ったとのこと。
ここで作られたビールは天童温泉の温泉街の中にある「桜桃の花 湯坊いちらく」で販売されています。ただし、樽生が飲めるのは宿泊した人だけで、外来の人が買えるのはボトル入りの製品だけです。
通販もあまり行っておらず、確実に飲みたいなら天童温泉を訪れるか、東京の丸の内ビルにある直営店の「Daedoko」に行くのがよさそうです。

作っているビールはサクランボを使った「聖桜坊(セントチェリー)」と、そばを使った「SOBA DRY(旧Mr. A)」で、普通の麦とホップのビールは製造していません。日本の法律ではサクランボもそばもビールの副原料として認められてはいないので、表記上は発泡酒となっています。

銘柄味の印象
聖桜坊(セントチェリー) 
(フルーツビール 5.5%)
山形県はサクランボの生産量がぶっちぎりの全国第一位で、シェアは約75%に達します。聖桜桃は目にも鮮やかな朱色をしており、ほのかな甘さと酸味の中に麦芽の味が隠れています。ボトルも紺色の瓶に銀のキャップカバー、ラベルは黒に白地抜きで桜の花と名前を入れた、しゃれた果実酒のようなデザインです。
SOBA DRY
(オリジナルビール 5%)
山形産更科そばを使用した風変わりなビール。見た目は濁りのある金色をしてライトな感じがしますが、麦芽とそばの香ばしさの後に、良く利いたホップの風味と強めの苦みがやってくる強い味をしています。まさにそば&ドライなビールです。
フランボワーズ
(フルーツビール)
日本では珍しいキイチゴのフルーツビールで、2014年に発売されました。フルーツビールの本場であるベルギーでは、キイチゴはサクランボと共にビールの素材として使用されています。サクランボよりも深みのあるルビー色で、はっきりとした甘酸っぱさが最大の特徴です。

極楽麦酒本舗

極楽麦酒本舗

極楽麦酒は2016年2月に米沢市中央に設立された新鋭のマイクロブルワリーです。
クラフトビールの醸造を開始する以前から立ち飲みパブ、イタリアンカフェを営業しており、そこにブルワリーを併設した形態となっています。
イタリアンカフェ「フェリーチェ」ではランチだけでなく、お惣菜の量り売りもされており、食べきれないメニューの持ち帰りもOKとなっています。立ち飲みパブでは各種の樽生ビールや日本酒、焼酎を楽しめます。

製造するビールは現在、リンゴを使ったフルーツビールの「館山城」と、米沢独自の食材であるウコギを使用した「五虎退」の二種類。まだまだ規模が小さいので、法令上の許可の問題から発泡酒しか作れないとのことですが、お店が繁盛すればバリエーションも増えてビールも作れるようになるはずです。
まだ設立1年目ですが通信販売も始めており、全国どこでも買えるようになっています。

これらの他、天童市久野本にある「将棋(こま)のむら 天童タワー」の将棋のさとブルワリーもフルーツビールを主力としています。素材は山形が全国1位のサクランボ、同じく1位のラ・フランス、そしてブドウ、リンゴの4種類。これら以外にピルスナーとスタウトを作っています。通販はしていないようで、天童タワーに行って飲むかお土産で買うかしなくてはいけないようです。

銘柄味の印象
館山城
(フルーツビール)
リンゴ果汁を使用したフルーツビールで、名前は戦国時代における伊達氏の山城に由来します。ちなみにビールのラベルデザインは「酒の細道」の作者、ラズウェル細木氏の手によるものです。
五虎退
(オリジナルビール)
米沢市で利用されているウコギ(コシアブラ)を使用した、世界で一つしかないオリジナルビールです。五虎退とは上杉謙信が拝領した短刀で、現在は米沢市上杉博物館で展示されています。ウコギはタラノキやウドと同じウコギ科の植物で、春先に伸びる新芽が食用にされます。ビールそのものはロースト麦芽を使った黒に仕上げられています。

次回は東北最南端の県、福島県のクラフトブルワリーを紹介します。山形に比べると福島のブルワリーは規模が大きいものが多く、他の地域でも手に入れやすいようです。

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