もう1社だけじゃない:鳥取県のクラフトブルワリー

もう1社だけじゃない:鳥取県のクラフトブルワリー

鳥取県のクラフトブルワリー

かつて鳥取県にはクラフトブルワリーが4つあったのですが、うち3つが2007年に相次いで閉店・醸造中止となり、比較的規模が大きな「くめざくら大山ブルワリー」だけが残った状態になってしまいました。
しかし、くめざくら大山ブルワリーのブランド「大山Gビール」は設立以来品評会で様々な賞を獲得し、2011年にビール品評会の世界最高峰である「ワールド・ビア・アワード」で1位にノミネートされるなど、クラフトブルワリーとして確固たる地位を築いています。

また、2016年には智頭町に「タルマーリー」がオープンし、約9年ぶりに鳥取に複数のブルワリーが営業するようになりました。こちらは小規模ですが、全ビールを付近で採取したオリジナルの野生酵母によって醸造する、日本で唯一のブルワリーとなっています。
クラフトブルワリーの数が増えたことで、それらの店で修業をした人が新しくビール事業を始めるケースも多くなってきており、タルマーリーの醸造士の方もその一人です。
一旦は衰退したように見えても、実は日本のビール産業は静かに根強いものとなっているのかもしれません。

大山Gビール

大山Gビール

大山Gビールは伯耆(ほうき)町にある「久米桜麦酒株式会社」が有する「くめざくら大山ブルワリー」で作られているビールブランドです。久米桜麦酒株式会社は1855年に創業した造り酒屋「久米桜酒造」と山陰酸素グループの共同出資により、1996年に設立されました。
鳥取県内では最も古いクラフトブルワリーであるとともに、2007年に鳥取県内の他のブルワリーが閉店して以降、しばらくの間は鳥取における唯一のクラフトブルワリーになっていました。
日本のクラフトビールの歴史の最初の頃から現在まで営業し続けているだけあり、ビールの質はとても高く、早いうちから数々の品評会で受賞する実績を有しています。特に2011年にはイギリスで開催されたWBAにおいて各部門で1銘柄が世界1位、2銘柄がアジア1位を獲得する快挙を成し遂げました。

材料は地元産にこだわっており、日本のビール企業では珍しくホップを自家栽培しています。このホップは「ヴァイエン」というオリジナル品種で、ヴァイエンにはドイツ語で「愛情」「奉献」意味があります。ちなみにホップ畑は元々、梅の農園であったため、ヴァイエンは「梅園(ばいえん)」と掛けた洒落にもなっています。
麦は鳥取県で開発された「ダイセンゴールド」という品種を栽培しています。栽培面積の制約から全ビール製造を賄える量は用意できていないものの、夏に作られる季節限定ビール「大山ゴールド」の原料となっています。
水はもちろん大山のふもとから湧き出る伏流水です。
レギュラービールは4種類で、それ以外にも限定ビールが2種類作られています。限定ビールの内容は時期によって入れ替わり、季節限定で作られるものもあれば、1回限定のものもあります。

タルマーリー

タルマーリー

タルマーリーは智頭町で2016年6月にオープンしたベーカリーカフェです。「タルマーリー」の名は、経営者の渡邉格(いたる)さん、麻里子さん夫妻の名前を由来としています。
格氏は元々、有機野菜販売会社に勤めていましたが、退職して2008年に千葉県のいすみ市にてパン屋さんとしてタルマーリーを開業しました。この頃から、小麦の粒を仕入れて自分たちで製粉し、天然の酵母だけで膨らませる方法でパンを作るこだわりぶりでした。

2011年にはパン作りに専念するべく岡山市の勝山に移転し、酵母を空気中から採取して使用する独自の方法を確立。そして2015年に智頭に移転し、パンの製造・販売に加え、ビール醸造とカフェの三本柱体制へと発展しました。
醸造士である三浦氏はタルマーリーが岡山県にあったときに入社し、ビール醸造を学ぶべく山梨県のアウトサイダー・ブルーイングに修行に出た後、智頭でのオープン4日前に発泡酒の醸造免許を取得しました。日本のクラフトブルワリーの間で、修行による技術の伝達が急速に進んでいる様子を体現する方々の一人といえます。

タルマーリーのビールの最大の特徴は、培養された酵母ではなく、周囲の環境から採取した野生酵母で作られている点です。野生酵母を使って作られるビールには、ベルギーで作られる「ランビック」が良く知られています。日本でも地元で採取した酵母を使ってビールを作っているブルワリーはいくつかありますが、タルマーリーのようにすべてのビールを野生酵母だけで作っている所はありません。
酵母は二種類が使われており、一つは森の中に麦汁を入れた瓶を一晩放置しておいて得られた品種、もう一つは醸造所裏手の森に柿と梨を置いて採取し、レーズンを加えて発酵を進めたことで生み出された品種です。
野生酵母を使ってビールを作る場合、酵母と共に酪酸菌なども取り込まれるため、出来上がったビールは強烈に酸っぱく、癖が強い香りを持つのが普通です。しかし、タルマーリーのビールではそのような酪酸菌の働きがなく、わずかな酸味と複雑な風味を持ちつつ、甘みとフルーティーな味わいを有します。
千葉から岡山、鳥取へと移ったのは、納得できる野生酵母を探し求めたが故の選択という一面もあったようです。また、三浦氏が修行に出たアウトサイダー・ブルーイングも野生酵母のビールを銘柄に加えており、この技術がタルマーリーのビール造りにも活かされています。

小規模ではあるものの、それは同時に様々なチャレンジのしやすさにもつながっており、パン焼き釜でローストした麦芽を使った「スモークスタウト」、山椒と世界各地のホップを使った「ホップホワイト」など、個性的なビールを次々と作ってメニューを入れ替えています。
唯一の定番である「ペールセゾン」は、果物のように甘く、且つスパイシーな香り、柑橘に似たホップの香り、ピリッとしたドライさが組み合わさっており、野生酵母を使ったビールならではの複雑な味わいです。
醸造所は発酵槽が4つと、250リットルの醸造タンクが一つだけという小さな規模なので、あまり余分がなく、流通は殆どありません。タルマーリーでの販売以外に、ごく少数が東京など他の地域に出荷されているだけで、タルマーリーの経営理念からして規模の拡大に踏み切ることもなさそうです。
ビールは樽生こそがおいしいものなので、飲みたければ鳥取に行くのが一番でしょう。

次回は広島県のクラフトブルワリーを紹介します。

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