かつての有名ブランドの本拠地:愛知県のクラフトブルワリー

かつての有名ブランドの本拠地:愛知県のクラフトブルワリー

愛知県といえば三英傑を排出し、江戸の文化の創出にも大きな役割を果たした長い歴史がある場所です。歴史がある場所にはグルメがあるということで、現在の愛知県はグルメ激戦地として知られています。煮込みうどんや手羽先など、全体的に味つけが濃い料理が多く、ビールとの相性も良好です。

実は愛知には、戦前における日本の有名ビールブランド「加武登麦酒(カブトビール)」のメーカー「丸光麦酒」がありました。醸造所の設立は1887年(明治20年)で、創業者は中埜酢店(現在のミツカン)4代目の中埜又左エ門とその甥であり、後の敷島製パンの創業者である盛田善平です。
当初の名前は「丸三ビール」でしたが、1898年に半田に工場を新設した際に、カブトビールの名に改められました。明治時代においては東海地方のシェアNo.1を誇り、パリの万国博覧会で金賞を受賞するなど、かなり有力なビールメーカーであったことが分かります。

会社は幾度か改称・合併などの変遷があったものの、カブトビールの製造は続き、愛知県を代表するビールの座を維持しました。2013年の映画「風立ちぬ」で何度か登場しているので、名前を聞いたことがある人も多いかもしれません。
1943年に企業整備令の影響で工場が閉鎖され、カブトビールも無くなってしまったのですが、工場の建物は「半田赤レンガ建物」として観光施設となっています。また、2005年から「復刻版」が作られるようになり、現在は工場内のカフェで生カブトビールを飲むことができます。

盛田金しゃちビール

盛田金しゃちビール

盛田金しゃちビールは1996年に名古屋で創業したクラフトブルワリーです。当初は「ランドビール株式会社」という名前でしたが、2006年に現在の名前へと改名されました。その2年後に青森の調味料メーカー「ワダカン」に経営統合されてビール事業部となりましたが、2016年にふたたび分離独立し、盛田金しゃちビール株式会社として再出発しています。

ミツボシビール

親会社である盛田は清酒や味噌、醤油、調味料の製造販売を行う企業グループであり、創業は1665年と、日本の醸造業界における大手老舗企業の一つです。
実は明治時代にはビール製造事業を行っており、1884年(明治17年)~1885年にかけて「三ツ星麦酒」という名前のビールを販売していた過去があります。盛田金しゃちビールは、盛田にとって実に約100年ぶりのビールということです。

約350年の歴史を持つ醸造の大手専門企業が作るということだけあり、かなり高品質、かつオリジナリティあふれるラインナップが揃っています。水は木曽山系の地下水で、ヨーロッパ産の麦芽とホップを使用しつつ、赤味噌や抹茶、国産のフルーツなど、日本独自の素材の使用にもこだわっているのが特徴です。
基本ブランドの「金しゃちビール」の他に、原点ともいえる三ツ星麦酒にあやかった「ミツボシビール」のブランドも有しています。こちらは「歴史」「伝統」「復活」をキーワードにしており、レトロ調なラベルデザインと、胴の太いどっしりとしたデザインのボトルが目を引きます。

Yマーケット・ブルーイング

Yマーケット・ブルーイング

Yマーケットブルーイングは2014年に、名古屋市の酒屋「岡田屋」が名駅にオープンしたクラフトブルワリーです。名前は名古屋駅前にある柳橋中央市場が由来とのこと。名古屋市には以前は4軒のブルワリーがあったのですが、いずれも閉店してしまい、Yマーケットが登場するまでは、しばらく空白地帯になっていました。

岡田屋は楽天などの通販業界にも進出しており、日本のクラフトビールをお買い得なセットにして販売してくれるので、クラフトビール好きの間ではよく知られたお店です。岡田屋ではYマーケット以前にもクラフトビールが飲めるパブ「KEG NAGOYA」や「GRILLMAN」などの店舗を展開していましたが、Yマーケットにおいて、ついに自分でもビールを作るようになりました。
店舗は1階が醸造所、2階がレストラン「Yマーケット・ブルーイング・キッチン」、3階が完全予約制のバーベキュー・レストラン「柳橋TERRACE」となっています。

特筆するべきはビールの種類の多さ。公式サイトのビールラインナップには100種類以上の銘柄が掲載されており、濃厚なものからドライなもの、ベルジャンスタイルからアメリカンなものまで、バリエーションがとにかく豊かです。ビールを作る際には、熟成段階でホップを漬け込んで香りと苦みをさらに強化する「ドライホッピング」という手法を多く使い、香りと苦みを強めに利かせたビールを多く手掛けています。

100種類以上のビールすべてが常に用意されているわけではないのですが、それでも普段から8種類ものビールを飲むことができます。メニューは肉やフライを中心としており、どて煮、名古屋コーチンのレバーパテ、ロティサリーチキンなど、ビールに合う料理がそろえられています。
2015年3月から数種類の商品が、岡田屋からボトル販売されるようになりました。生産量はあまり多くないので、他で手に入れるのは少々難しいようです。ただ、それだけの価値があるビールでもあります。

一宮ブルワリー

一宮ブルワリーは一宮市のNPO法人「志民連いちのみや」が運営するクラフトブルワリーです。
かつての一宮市においては、繊維会社の三星毛糸が1997年に開業した、尾張ブルワリーというクラフトブルワリーがありました。しかし、2006年に三星毛糸がビール製造業から撤退し、尾張ブルワリーも閉鎖されることになってしまいました。一度は買収と再建の話も出ていたのですが、買収先の企業の都合により立ち消えになってしまったそうです。

しかし、尾張ブルワリーにおいて醸造責任者を務めていた山田氏は、ビール醸造に携わる夢をあきらめきれずに道を探り続けていました。2011年に、尾張のクラフトビール文化育成に取り組んでいた星野氏が運営する「Com-Café三八屋」の拡張計画が出たとき、二人が協力して一宮ブルワリーを設立しました。
山田氏はある企業に勤める身であるため、ビールの醸造は副業ではなくボランティアとして行っています。

醸造所の面積は4坪で、仕込み釜は中華鍋サイズ、発酵室は業務用冷蔵庫の中とまさにマイクロなブルワリーです。ビールの仕込みは週に1度で、作られたビールは三八屋で飲むことができます。
この場は元からカフェがあった場所で、地元の人の憩いの場所にもなっています。醸造量が非常に限られていることから、他では販売されておらず、飲めるのは三八屋だけです。それでも、一宮ブルワリーのビールを飲むためだけに、遠くから来る人もいるということで、マイクロブルワリーとしての実力は決して低くないことがうかがえます。

店に置かれているビールは3種類程度で、季節や週によってメニューが入れ替わります。
注目は「タータンエール」。白ワインのような香りを持つペールエール風のビールで、三八屋特製の鶏ハムとの相性がピッタリです。
Com-Cafe三八屋は一宮駅から歩いて5分程度の場所にあるので、尾張に来たときはぜひ一度訪れてみたいところです。

次回は三重県のクラフトブルワリーを見ていきましょう。

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