日本産ホップの聖地:長野県のクラフトブルワリー

日本産ホップの聖地:長野県のクラフトブルワリー

長野県のクラフトブルワリー

冬の寒さがひときわ厳しい代わりに、夏は涼しく避暑地になる長野県。このような涼しい地域は、ビールの重要な要素であるホップを生産するのに適した環境です。
日本のビール黎明期である1906年。北海道においてアメリカ産のホワイトバイン品種の雄株と、ドイツ産のザーツ品種の雌株を交配したところ、ある優良な品種が誕生しました。
この品種は1913年に「ドイツ種」と名付けられ、試験を行ったところ長野の気候に適したホップであることが判明しました。それからドイツ種は「信州忽布」を経て、1919年に「信州早生」と命名され、長野を中心とする地域で広く作られるようになりました。
昭和の初期まで、長野県は日本のホップ生産量のほとんどを占める、国産ビール醸造の重要拠点の一つとなっていました。

しかし、1968年に農産物輸入の自由化がクローズアップされると、ホップを作っていた小規模農家の消滅が始まり、国産のホップの生産量はどんどん減っていきます。
1985年には長野県の生産量が大きく減り、1998年には長野でホップ生産は完全に終了しました。2010年における日本でのホップの生産量は325トンで、全盛期(1968年)の10分の1程度になっています。
しかし、クラフトビールの勃興により、自分でホップを作ったり、農家と契約したりする企業が生まれ始めています。ホップ生産量を回復させるには至らないでしょうが、信州早生を始めとする日本独自の品種の血脈を保つ事はできます。
一旦はホップ生産が終了した長野県でも、自社生産を始める企業が現れており、もしかすると長野県がホップ王国として復活する契機になるかもしれません。

ヤッホーブルーイング

ヤッホーブルーイング

軽井沢に居を置くヤッホーブルーイングは、クラフトビール好きの間では知らぬものはいない超有名企業です。現在の日本のクラフトビール業界においてはトップを走り、大手第5位のオリオンに迫る勢いです。
「日本のビールを変える」という理念の下で1996年に設立され、個性がはっきりした各種のエールビールを主力商品としています。一つ一つの製品が「スタイルの個性」が明確にわかる作りであり、消費者が「自分はこのスタイルのビールが好き」という、一人一人の好みやこだわりを見出せるようになっています。製品名も一度聞いたら忘れられないような奇抜な名前ばかりで、缶のデザインも鮮やかでスタイリッシュで凝ったものです。
スーパーやコンビニで目にしたとき、「これは私の好きなスタイルのビールです」と、一発でわかるようになっています。

クラフトビールの企業としてはかなり珍しいのですが、ヤッホーブルーイングではスペシャル以外の全製品が缶のみで販売とされています。瓶製品よりも保存期間が長く、取り扱いが簡単であるために非常に広く流通しており、スーパーやコンビニにおいて最も頻繁に見かけることができます。
製品は主力の定番品の他、1年間少量で限定販売されるスペシャルな製品や、消費者の好みを聞かず自分たちの考えたビールを作る「好みなんて聞いてないぜSORRY」というシリーズがあります。あら塩とゆずの皮を使ったセッションエール。鰹節を使った白いIPA、米麹と酒粕を投入し、アルコール度数も強めにしたストロングエールなど、消費者のニーズだとかそんなものは完全に無視して作られた非常に挑戦的な作品です。
これらは発売からすぐに売り切れてしまい、ヤッホーブルーイングがいかに人気のある醸造所であるかを知らしめてくれます。ビールの年間契約をしておけば、こうした限定ビールも優先的に回してくれるそうです。
いくつかの商品はローソンとの共同開発で作っており、ローソンではヤッホーブルーイングの製品がよく置かれているだけでなく、ローソン以外では売られていないものもあります。

ローソンとの共同開発
ローソンとの共同開発商品
銘柄味の印象
よなよなエール
(アメリカンペールエール 5.5%)
ヤッホーブルーイングの看板商品です。イギリスで生まれたペールエールのアメリカ版で、香りづけのホップにアメリカ産のカスケードホップのみを使用しています。煮沸時だけでなく、熟成時にもホップを入れるドライホップ製法を使い、カスケードが持つ柑橘の香りを最大まで引き出しています。缶には飲み方の心得まで書いてあるという、気合の入ったビールです。
よなよなリアルエール
(アメリカンペールエール 5.5%)
リアルエールは未熟性の状態で樽出荷し、パブや飲食店が管理して飲み頃になったものをハンドポンプで汲んで提供するスタイルのビールです。この味を再現するべく、酵母も何も取り除かずに、完全に生の状態で缶に詰めたよなよなエール。賞味期限は4週間で、その間に味が変化し続ける限定商品です。
東京ブラック
(ポーター 5%)
黒地に金の雲、そして背を向けた力士の姿が描かれた、男らしいデザインが印象的な、イギリス生まれの黒です。ローストした麦芽とホップの苦みが、ココアのような香りとカラメルのような滑らかな口当たりにより、共に高いレベルで釣り合った、とにかく濃厚この上ない味わいになっています。
インドの青鬼
(アメリカンIPA 7%)
笑う鬼の顔が描かれた青色いデザインが特徴の、イギリスからインドへの輸出向けとして生まれたビール。カスケードホップの爽やかな香りと、思わず「苦っ」と言いそうになるぐらいの苦みがほとばしります。人によって好みはっきり分かれる味ですが、好きになる人は本当に好きになるビールです。
水曜日のネコ
(ベルジャンホワイト 5%)
水色のラベルにネコの切り絵をあしらったデザインが柔らかいイメージを与える、ベルギー発祥のビール。小麦麦芽を50%以上使い、コリアンダーシードとオレンジピールを加えて作られる、甘酸っぱく優しい香りが特徴です。
サンサンオーガニックビール
(エール 5%)
有機栽培されたホップと麦だけを使い、さらに有機農産物加工種類製造業者の認定を受けた醸造所で製造した、有機ビール。ヤッホーブルーイングの製品の中ではテイストがピルスナーに一番近く、大手のビールしか飲んだことが無い人にも抵抗なく受け入れられます。

ローソンとの共同開発商品

銘柄味の印象
僕ビール、君ビール
(セゾン 5%)
ベルギーの農家が夏に飲むために作っていた物が発祥のベルギービール。白地に帽子をかぶったカエルを描いたデザインが、素朴な夏休みを連想させます。ドライでありつつ、普段口にするラガーにはないハッとするようなアロマと苦みが、夏にぴったりの爽快感を作り出します。
僕ビール、君ビール。よりみち
(アメリカンウィート 5%)
こちらは若草色の下地にカエルが描かれた、もう一つの夏向けビールです。アメリカ風にホップを多めに使った小麦のビールで、セゾンよりも甘酸っぱく、苦みは弱めになっています。
月面画報
(ベルジャンペールエール 5%)
ベルギーの酵母を使って作られたペールエールで、酵母が作る香り物質による甘さが感じられます。よなよなエールの鮮やかな柑橘の香りとはまた異なる、花や南国の果物に似た優雅さが持ち味。どちらがより好みかを比較してみるのも面白そうです。
好みなんて聞いてないぜSORRY UMAMI IPA
(オリジナルビール 7%)
なんと「かつおぶし」を使用した、前代未聞・唯一無二の独創的極まりないビール。消費者の好みなんて聞いてないぜと言わんばかりの変り種ですが、IPAのアロマと苦みの中に、日本人なら馴染みがある「旨味」が調和した、実にバランスが取れた味です。

スペシャルビール

銘柄味の印象
英国古酒 ハレの日仙人
(バーレイワイン 9%)
おめでたい「ハレの日」用として生み出された、長期熟成の高アルコールビール。ヤッホーブルーイングの中では例外的に瓶詰めの製品で、蓋もついています。ワイン並みの度数と、甘み・苦みがともに芳醇な、高級の名に恥じないビールです。毎年数量限定で。お値段は1本3,000円。
バレルフカミダス
(バーレイワイン 9%)
ワインやウイスキーの貯蔵に使っていた樽を使用して熟成を行う「バレルエイジド」と呼ばれるビールです。ハレの日仙人と同じバーレイワインを、さらに数カ月~数年間樽で熟成することで、ワインやウイスキーの風味を付けており、毎年ごく少数が限定生産されます。

諏訪浪漫麦酒

諏訪浪漫麦酒

諏訪浪漫麦酒は諏訪市にある日本酒酒蔵「麗人酒造」のビールブランドです。
麗人酒造の創業は寛政元年(1789年)で、蔵の建物の一角には、創業当時の大黒柱が今でも残っています。この大黒柱には、酒造りの神様として知られる京都の松尾大社の銘が入っており、この大黒柱は、麗人が二百余年続く造り酒屋である事実を証明する、歴史的な物証ともなっています。

諏訪浪漫麦酒は平成11年に開始しました。杜氏が日本酒と共にビール醸造を行っています。
製品は基本的にエールですが、麗人が仕込みに使う水はミネラル分が少ない軟水であり、豊富なミネラル分を好むエール酵母はうまく活動できません。
そこで、ビールの仕込み水には、近くから湧き出る上諏訪温泉の温泉水をブレンドすることでミネラル分を添加し、エールを醸造するのにふさわしい水になるように調整しています。
温泉水には硫黄分が含まれているために、そのままでは少々臭いのですが、ビールでは発酵の際に出る二酸化炭素と共に硫黄のガス臭は排出されてしまうので、出来上がりは澄んだ味になるので安心です。

銘柄味の印象
しらかば
(ケルシュ)
ドイツのケルン特産のビール。華やかな香り物質を出すエールの酵母を使い、低温で長時間熟成させることでラガーのようなスッキリ感を持たせています。本場では小さめのグラスでお代わりするのが基本の飲み方です。
りんどう
(アルト)
ケルンのライバル都市であるデュッセルドルフで特産のビールです。ケルシュと同様の発酵方法で作られていますが、ローストしたカラメル麦芽を使っているために銅色をしています。苦み、甘み、香りのバランスが取れており、食事に合わせるのに適しています。
くろゆり
(ドライスタウト)
アイルランドでイギリスのポーターを基に誕生した黒ビール。ロースト麦芽の甘さが強く出過ぎないように、スタウト本来のドライさが残るように調整されている点が特徴です。他の濃色ビールが甘くてくどいと感じる方に向いています。
オリジナルエール
(オリジナルビール)
諏訪浪漫麦酒のオリジナルエールです。カスケードホップを多く使用して柑橘の香りと苦みを強めにした、アメリカンスタイルとなっています。

OH! LA! HO ビール

OH! LA! HO ビール

OH! LA! HO(オラホ)ビールは、信州東御市振興公社が持っているビールブランドです。
オラホとは信州の方言で「私たち」「私たちの土地」という意味だそうです。
信州東御市振興公社ではオラホビール醸造所の他、5つの温泉リゾート、2つのレストランを経営しており、物流センターでもオラホビールの購入が可能です。

通常ラインナップはエール系ビール5種類で、これ以外に季節限定の「ビエール・ド・雷電」シリーズが作られています。ビエールはフランス語でビールのことで、雷電は史上最強として名高い江戸時代の力士「雷電為エ門」に由来します。

ビエール・ド・雷電
ビエール・ド・雷電

通常ラインナップのビールはいつ飲んでもおいしいスタイルの、ビエール・ド・雷電はそれぞれの季節に合わせた味のビールです。
ヤッホーブルーイングと同様、オラホビールでも販売は350ml缶が基本ですが、注文により蓋つきの1リットル瓶を買うことも出来ます。

銘柄味の印象
ゴールデンエール
(ゴールデンエール)
ピルスナーによく似た金色の見た目ですが、エールなので香りがさらに華やか。底にほのかな苦みが加わり、ドライで苦みが強いビールとは中身が全く違うことを知らせてくれます。
アンバーエール
(アンバーエール)
焙煎麦芽を使った琥珀色のビール。アメリカで人気のスタイルの一つです。ホップの苦みがロースト麦芽の甘みによって調和され、バランスの取れた味になっています。クセが少なく、ドライなビールが苦手な人にもおすすめ。
ケルシュ
(ケルシュ)
ケルン発祥のビールで、ラガーのようなあっさりとしたドライさと、エールビールの華やかな香りという、爽快さと香り高さを同時に併せ持っています。少し冷やし気味にしても楽しめるエールです。
ペールエール
(ペールエール)
イギリスのバートン・アポン・トレントという町で生まれた、エールビールの代表選手です。ラガー酵母に比べるとエールの酵母は様々な香り物質を生み出し、それがビールに深い香りを与えています。
キャプテンクロウ エクストラペールエール
(ペールエール)
通常の倍以上のホップを使用して作ったペールエールです。IPAほど大量に使わず、邪魔せず2杯目に手が出せる味わいにとどめるとともに、アロマを大きく強化しています。オーストラリアで開かれるAIBAの2016年度において銅賞を受賞しました。

ビエール・ド・雷電

銘柄味の印象
春仕込み「ホワイトエール」
(ベルジャンホワイト)
ベルギー原産のビールで、小麦(麦芽にしていないものもある)と、コリアンダーやオレンジピールといったスパイスが加えられています。春霞のように白みがかかってうっすらと濁った色合いと、甘さとかすかな酸味が春を思わせるビールです。
夏仕込み「ヴァイツェン」
(ヘフェヴァイツェン)
ドイツのバイエルン地方発祥のビールで、小麦麦芽を多く使って作られます。小麦に由来する甘さと、酵母が作る南国の果物のような優しい味わいがあり、夏に冷やしてゆっくり飲むと最適です。
秋仕込み「インディアペールエール」
(IPA)
自家製のホップをたっぷりと使用した、まさに自家製IPA。たくさんのホップが作り出す強い苦みとアロマ。秋の味覚に負けず、引き立てる力強さを持っています。
冬仕込み「ポーター」
(ポーター)
イギリスのロンドンで生まれた黒ビール。カラメルのように濃く、滑らかな喉越しが特徴です。冬の黒ビールは体を温めるアルコールとして、常温で時間を掛けて飲むのが基本的な飲み方になります。

次回は山梨県のクラフトブルワリーを紹介します。

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