個性も味も濃いビールが主力:岩手県のクラフトブルワリー

個性も味も濃いビールが主力:岩手県のクラフトブルワリー

岩手県のクラフトブルワリー

岩手県のクラフトブルワリーは、日本全国への出荷のみならず、海外への輸出も行っている企業が揃っています。海外の技術を積極的に取り入れつつ、日本では馴染みがないスタイルのビールを送り出している、クラフトビール業界を牽引する実力の持ち主ばかりです。
2011年の大震災で岩手は大きな被害を受け、ビール産業も少なからぬ影響を被りました。しかし、そんなことではへこたれず、すぐに国際的な品評会で賞を取り、新しい国への輸出に乗り出すなど、非常にたくましいところを見せてくれています。

べアレン醸造所

べアレン醸造所限定醸造ビール

べアレン醸造所は岩手県盛岡市に拠点を置くブルワリーで、親会社を持たない独立系の企業です。べアレンとはドイツ語で「熊」の意味で、岩手の自然とビール職人のがっちりした体格のイメージからつけられた名前です。
おいしいビールがあれば食卓はもっとハッピーになるという理念のもと、地元の人が日常的に食事とともに楽しめるビールを作っています。盛岡市内には直営のレストランが4軒あり、ベアレンの樽生ビールだけでなく、海外のビールや岩手のお酒も楽しむことができます。パーティープランにはしっかりと飲み放題もついてきます。

設備のほとんどはドイツから移設した物で、麦芽を挽くミルや煮沸に使う銅の釜などは100年前から使われている歴史ある品です。醸造を行うブラウマイスターのイヴォ・オデンタール氏もドイツ出身で、世界各地で修業を積んできたその実力には確かなものがあります。

ビールはドイツのスタイルが主体で、少数ですがイギリスやベルギーのスタイルも製造しています。定番ラインナップは3つで、それ以外には限定醸造品月ごとに製造・販売されています。日本ではなじみが薄い濃厚なスタイルが多く、「ビール=スッキリ淡麗」という固定観念を打ち砕くことでしょう。

銘柄味の印象
クラシック
(ドルトムンダー 5.5%)
ドルトムンダーはドイツのドルトムンドで輸出用として考案されたスタイルです。保存がきくようにアルコール度数はやや高く設定されています。見た目はピルスナーに似ていますが、味は濃い目です。
アルト
(アルト 5%)
ドイツのデュッセルドルフで生まれたスタイルで、エールの酵母で仕込み、ラガーのように低温で熟成して作られます。カラメルのような芳ばしい香りと味、穏やかなホップの苦みが、クリーンでみずみずしい印象です。
シュバルツ
(シュバルツ 6%)
高温でローストした麦芽を使ったラガー。コーヒーに似た香ばしさと、ほのかな甘みとドライさが調和した上品な味わいです。肉料理など味の濃い料理と相性が抜群です。

季節限定品

銘柄味の印象
ライ麦ビール
(ライビール 5.0%)
原料にライ麦を使用したビールで、3月の限定商品です。ライ麦は普通のビールに使う大麦に比べると旨味が強く、ビールもまた異なった味になります。ライ麦の生産量はドイツが世界一で、ライ麦ビールはまさにドイツならではの伝統品といえます。
マイボック
(マイボック 6.5%)
マイとはドイツ語で「5月」のことで、秋に仕込んで冬に熟成し、5月に出して飲む長期熟成の高濃度なビールを意味します。色合いは淡いのですが、濃厚な甘みがあります。4月限定の商品です。
夏のヴァイツェン
(ヴァイツェン 5%)
小麦麦芽を50%以上使用したドイツの白ビールで、かつてごく一部の醸造所にのみ製造が許されていた「貴族のビール」です。夏の暑い日においしく感じるように、ややライトな味わいに作られています。
ラードラー
(ビアカクテル 2.5%)
ビールをレモネードで割って作ったドイツのビアカクテルです。名前は「自転車乗り」の意味で、自転車乗りが多く集まるお店で考案されたのが由来だとか。べアレンのラードラーは日本産レモン果汁を100%使用しています。6月下旬ごろにだけ販売されます。
フェストビール
(オクトーバーフェスト 5.5%)
フェストは「お祭り」のことで、10月にミュンヘンで開催されるビール祭り「オクトーバーフェスト」で提供されるスタイルのビールです。春先に仕込むので、夏の間に傷まないように濃い目に作られています。9月の限定品です。
冬のヴァイツェン
(ヴァイツェン 5.0%)
冬のヴァイツェンは夏に比べると味が濃くになるように作られており、生クリームのようなまろやかさを、時間を掛けて楽しむビールになっています。色も雪国を連想させる、褐色がかかった深みのある色です。
ウルズス
(ヴァイツェンボック 7.0%)
ウルズスとはラテン語で熊のことです。ヴァイツェンボックは濃厚で高アルコールに作った小麦のビールで、強い甘みとオレンジのような香りがありますが、まさに熊のような力強さも感じさせます。12月の限定品で、冬に飲むにはうってつけです。
チョコレートスタウト
(ミルクスタウト 6.5%)
高温でローストしてカカオのような風味を持たせた、非常に濃厚な黒のエールビールです。べアレンは日本で最初にこのスタイルのビールを作ったので、まさに元祖日本のチョコスタウトといったところです。1月の限定品で、バレンタインデーの贈り物などによさそうです。
岩手ゆずヴィット
(ベルジャンホワイト 4.5%)
ベルギーの白ビールをアレンジした和風ビール。本来はオレンジの皮とコリアンダーの種を使用しますが、その代わりに陸前高田市産ゆずの皮を用いているのが特徴です。
アップルラガー
(フルーツビール 5%)
麦汁に盛岡市産のリンゴ「さんさ」の果汁を加えて共に発酵させて作ったフルーツビールです。リンゴの強い甘みとビール特有の豊かで細かい泡の組み合わせは、他のどんな種類のお酒にも存在しません。

銀河高原ビール

銀河高原ビール

銀河高原ビールは1996年に岩手県沢内村の村おこし事業として設立された、東日本沢内総合開発株式会社が製造するブランドです。事業を始めたのは、東日本ハウス(現:日本ハウスホールディングス)の設立者である中村功氏です。
沢内村は日本有数の豪雪地帯であるために湧き水が豊富で、ビールの名産地であるドイツのバイエルンに気候が近い事も相まって、ビール造りに適した環境が揃っています。
名前の「銀河」は夢とロマン、「高原」は天然の名水のイメージです。また、「銀河」は会社の設立年である1996年が、「銀河鉄道の夜」の作者である宮沢賢治生誕100周年記念であることにも掛けています。

製造するビールは小麦麦芽を原料の50%以上使用し、なおかつ酵母や小麦のたんぱく質を濾過せず、とろりとした濁りを残したヘフェヴァイツェンのスタイルを基本としています。最初に作るのが無濾過の小麦のビールであるというのは、日本のクラフトブルワリーの中でもかなり珍しい姿勢です。これは他のビールとの差別化を図るために、ひと目で他と違うことが分かる特徴を求めたためです。ただ、設立時には良いヴァイツェンを作るノウハウが日本ではまだ確立していなかったので、かなりの苦労をしたそうです。

全国展開が積極的に行われており、缶入りの製品が多いこともあいまって、コンビニやスーパーでも頻繁に見かけることのできるブランドとなっています。

銘柄味の印象
小麦のビール
(ヘフェヷイツェン 5%)
銀河高原ビールの基本ともいえる製品です。優しい甘さとバナナのような芳しい香り、かすかな酸味、非常に持ちが良い豊かな泡が特徴です。底に溜まる酵母の澱が、味を豊かにする秘密になっています。
ヴァイツェンビール
(ヘフェヷイツェン 5%)
小麦のビールのプレシャス版で、出荷から配送、保管まで冷蔵して味の品質を保つように工夫されています。仕込みで麦汁を糖化する際に、段階的に加熱して味に深みを持たせるステップインフュージョンという方法を採用しています。
白ビール
(ベルジャンホワイト 5%)
マスカットやかんきつ類のような香りと、繊細で上品な甘さが持ち味のベルギー風の白ビールです。本来はオレンジピールやコリアンダーシードを添加しますが、銀河高原の白ビールはあえて副原料を使用せず、酵母の力だけで香りを出しています。
ペールエール
(イングリッシュペールエール 5%)
エールビールの代表格であるペールエールはイギリスで生まれて世界に広まりました。イギリス産のホップを苦み付けに、ドイツ産のスパイシーな香りがするホップを香りづけに使用しています。
アメリカンペールエール
(アメリカンペールエール 5.5%)
アメリカンペールエールは、柑橘のような香りがするアメリカ産カスケードホップを多めに使用したペールエールです。イングリッシュペールエールよりも苦みとホップの香りが強く、弾けるような瑞々しさを持っています。数量限定品で、次の販売時期は未定です。
スタウト
(フォーリンスタウト 5.5%)
ローストした麦芽と大麦(麦芽でない)を使って作った黒いエール。フォーリンは「外国の」という意味で、海外輸出用として劣化に強くなるように濃く作ったスタウトを原型としています。こちらも期間・数量限定商品です。
ヴァイツェンボック
(ヴァイツェンボック 6%)
ボックは濃い麦汁を長期間熟成させることで作るドイツの高アルコールビールで、それのヴァイツェン版がヴァイツェンボックです。とにかく濃厚で滑らかなのどごしを持ち、甘い南国の果物を思わせます。飲み頃温度は10~13度。冬の限定商品です。

いわて蔵ビール

いわて蔵ビール

いわて蔵ビールは大正7年に創業した清酒酒造「世嬉(せき)の一酒造」が、1995年に設立したビールのブランドです。世の人を嬉しさせるという理念を清酒だけでなくビールでも体現するべく、多くの人に楽しんでもらえるように事業展開を積極的に行っています。今では保存性が良い缶製品の「赤蔵」「金蔵」「黒蔵」が登場し、スーパーやコンビニでも手に入りやすくなっています。

世界的なビール品評会にて毎年のように受賞するばかりでなく、アメリカ、台湾、シンガポール、イギリスなどに輸出も開始し、まさに世界に通用するビールへと成長しています。

ビールの仕込みに使う水は清酒と同じように北上山系の伏流水を使っています。ラインナップはベーシックなスタイルのもののみならず、オイスタースタウトやパンプキンエールなど、日本ではなじみがない強烈な個性のある海外のビールや、干し柿から取れた酵母、山椒など日本独自の材料を使ったビールなど、独自の製品を次々と生み出しています。
限定商品が多いのも特徴で、イベントなどにおいて数量限定で醸造された銘柄がいくつも存在しています。頻繁にチェックしておけば、売り切れてしまう前に貴重な限定品が手に入るかもしれません。

銘柄味の印象
ヴァイツェン
(ヘフェヴァイツェン 5%)
小麦麦芽を51%以上使い、クローヴのような甘い香りを生み出す酵母を使って作られたドイツの白ビールです。クラフトビールでも特に人気の定番のスタイルとなっています。
ペールエール
(ペールエール 4%)
紅茶やハーブに似た香りがするイギリス系品種のホップを使ったエールビール。するアメリカ系品種のホップを多用したアメリカンペールエールに比べると、ややおとなしく落ち着いた風味になっています。
金色堂ゴールデンエール
(ペールエール 5%)
平泉中尊寺の世界文化遺産登録を記念して作られたエールです。ライトなボディとヨーロッパ産ホップの香り、強めの苦みを持ち、さっぱりとした味に仕上げられています。
レッドエール
(レッドエール 5%)
アイルランドで古くからつくられてきた伝統的なエールで、カラメルモルト由来の赤みがかかった色合いが特徴です。甘いアロマと、低めの苦み、ほどよいコクが飲みやすさを高めています。
スタウト
(フォーリンスタウト 6%)
麦芽だけでなく、発芽させていない大麦もローストして使用しているのが特徴の黒ビールです。このスタイルはアイルランド生まれのギネスが元祖として有名ですが、銀河高原のスタウトはそれよりもアルコール度数が高く、強めの味わいです。
三陸広田湾牡蠣のスタウト
(オイスタースタウト 7%)
三陸広田湾で水揚げされた牡蠣の殻と身を入れて作ったスタウトです。ビールに牡蠣というのは意外ですが、スタウトの本場であるアイルランドで生まれて美食家に愛された伝統あるスタイルで、決してキワモノではありません。スタウトの味に海の香りがほんのり加えられているといった印象で、意外と滑らかな味です。
インディアペールエール
(IPA 6%)
通常の4倍のホップを使用し、香りと苦みを前面に押し出したビールです。ビールの中でも特に苦いスタイルなので人によって好みは分かれますが、ハマる人はとことんハマる魅力があり、日本でも非常に人気があります。
ジャパニーズスパイス エール山椒
(スパイスビール 5%)
爽やかな味わいのエールに、一関産の山椒の実を加えた和風スパイスビール。スパイシーな山椒の香りが際立ち、とても上品に仕上げられています。川魚や山菜のてんぷらとの相性がよさそうです。
東北復興支援ビール福香
(ワイルドビール 4%)
東北の復興支援のために醸造されたビールです。樹齢360年の「石割桜」から採取された酵母を使用して作られており、苦みが弱く軽めのビールになっています。
東北復興支援ビール 渚咲 NAGISA
(ワイルドビール 5%)
東北の復興支援のために醸造されたビールの一つです。釜石市の蛇島に咲く浜ユリから採取された酵母を使って醸造しています。ローストした麦芽を使っているので、福香とは対照的に重みのある味になっています。
オーガニック(自然発酵)ビール
(ワイルドビール 5%)
通常の培養酵母の代わりに、干し柿から採取された天然の酵母を使った、日本ならではのビールです。色は金色、コクは中ぐらいで、天然の酵母に由来する花のような香りと、穏やかな酸味を有しています。

いわて蔵ビールの限定醸造ビール

銘柄味の印象
こはるホワイト
(ベルジャンホワイト 5%)
地元で収穫されたこはる二条大麦と南部小麦を使い、オレンジピール、ナツメグ、コリアンダーで香りを付けたベルギー風の白ビールです。
パッションフルーツビール
(フルーツビール 5%)
生産量が少ないレアなフルーツビールです。南国産の果物のジュースを小麦のビールに加え、弾けるような味を作っています。イタリアンやフレンチによく合います。
かぼちゃエール
(パンプキンビール 5%)
一関産の「南部一郎かぼちゃ」を使用したビールです。アメリカで人気があるスタイルで、ハロウィンの定番になっています。意外にも味はスッキリとしており、ほんのりとしたかぼちゃの甘みが調和して、かなり飲みやすく感じます。
ヴァイツェンボック
(ヴァイツェンボック 7%)
毎年冬期に発売する季節限定ビールです。小麦麦芽を50%以上使用した冬向けの高アルコールビールで、強いアルコールと小麦麦芽に由来する甘味が濃厚さと相まって、熟したバナナのような風味を生み出しています。
バレンタイン限定のショコラスタウト
(チョコビール 5%)
カカオを使用したバレンタイン専用ビールです。チョコレートの香りとロースト麦芽を使用した黒ビールの味がマッチし、ビターチョコのような風味を作り出しています。
キャラメルエール
(オリジナルビール 5%)
こちらはホワイトデー用に作られたビールです。カカオの代わりにキャラメルを使って、甘く濃い香りを持たせています。チョコビールをもらったお返しには、ぜひこれを選びたいところです。
サムシングブルー
(フルーツ・スパイスビール 4%)
強烈なインパクトを持つ「青いビール」。シャンパンのような軽い味にレモン果汁を加えて、ホップ、オレンジピール、ナツメグ、コリアンダーで香りを付けたおしゃれなビールです。青い色はクチナシの色素由来です。
たかたのゆめエール
(オリジナルビール 5%)
陸前高田市復興応援のために醸造された、いわて蔵オリジナルのスタイルです。「たかたのゆめ」という品種の陸前高田市特産の米とゆず果汁を使っています。さらっとした飲み口とゆずの香りが夏にぴったりです。
バーレイワイン
(バーレイワイン 14%)
非常に濃く作った麦汁を使用し、1年間も熟成させて作る超プレミアビールです。赤ワインと見まがうばかりの濃い色と度数を持つ、まさに麦(バーレイ)のワインです。
たくさん作れるものではないので、予約制で毎年300本の限定販売となっています。値段は720mlで3200円もしますが、それだけの価値はあります。

次回はすぐ南の宮城県のクラフトブルワリーを紹介します。震災によって岩手と共に大きな被害を受けた場所ですが、ここのブルワリーもたくましく、いろいろなビールを作り続けています。

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