伝統と最新のブームを融合させるクラフトブルワリー(京都府のクラフトブルワリー)

伝統と最新のブームを融合させるクラフトブルワリー(京都府のクラフトブルワリー)

京都府のクラフトブルワリー

日本の文化が凝縮された「千年の都」である京都。歴史ある場所であるが故に、日本で最も伝統にこだわる都市であることでしょう。しかし、同時に長らく日本一の「都会」であり続けたため、実は新しいブームにも敏感な所があります。ビールについても同様で、規制緩和によってクラフトビールが作れるようになると、名のある酒蔵が業界に参入するなど必ずしも従来の枠にこだわりすぎない姿勢を見せています。
それでいながら原料にはしっかりと京都の名水を使用し、京料理にも合わせることができるビールに仕上げている辺りは、伝統もしっかりと尊重しているといえるでしょう。

黄桜株式会社

黄桜株式会社

黄桜は酒の名所である伏見に居を置く大手清酒メーカーです。よくCMも放送されているので、その名を知っている人は多いでしょう。
他の清酒メーカーに先駆けてCMを取り入れたり、東京にミニ醸造所を作ったりするなど、伝統を守りつつも先進的な事業に取り組む姿勢が特徴で、ビールについても規制緩和が行われた翌年には製造許可を取得して事業に参加しています。さらに、京都初となるクラフトビールレストラン「カッパカントリー」を開業し、清酒のみならずビールメーカーとしても発展しつつあります。

主要ブランドは「京都麦酒」と「ナイル」の二つ。京都麦酒シリーズは酒の仕込みに使われる京都の名水「伏水」を使って作られており、ミネラルのバランスが良い軟水を使うことで、日本人好みの柔らかな口当たりを実現しています。

京都麦酒シリーズは330ml瓶で販売されていますが、熱処理を加えて保存性を良くした250ml缶のモデルもあります。
ナイルシリーズは古代エジプトで作られていた小麦の品種を使用して作ったシリーズで、まさに伝統を守りながら新しい取り組みを行う黄桜の姿勢の表れと言えるでしょう。

これら以外にも、丹波の黒豆、カカオ、サクランボなどを使用した限定ビールも製造しています。

京都麦酒シリーズ

銘柄味の印象
京都麦酒 ケルシュ
(ケルシュ 5%)
ドイツ・ケルン地方独自のビールで、エールの華やかな香りとラガーのスッキリ感を併せ持っています。黄桜に限らず、清酒の蔵元はケルシュを作っている所が多いようです。
京都麦酒 アルト
(アルト 5%)
こちらもケルシュと並ぶ酒蔵ビールの定番です。ケルシュと似た手法で作られていますが、色はブラウンで味やコクが強めで、肉料理との相性が良いタイプです。
京都麦酒 蔵のかほり
(吟醸ビール 4%)
清酒の酵母を使って発酵させた、日本独自のビールです。日本酒特有の吟醸香がわずかに香り、飲んでみると、どことなくなじみがあるような不思議な感覚を覚えます。
京都麦酒 山田錦
(ピルスナー 5%)
日本酒用米の代表種である山田錦を原料に使ったピルスナーです。米はビールの中の硫黄分を調整して味をまろやかにする効果があります。

ナイルシリーズ

銘柄味の印象
ホワイトナイル
(ペールエール 5%)
紀元前8000年ごろから、古代エジプトで栽培されるようになった「エンマー小麦」を使用したビールです。
ブルーナイル
(ベルジャン・ホワイト 5%)
紀元前1000年ごろから古代エジプトで栽培されてきた「デュラム小麦」を使ったベルギー風ビール。コリアンダーとゆずの皮を使って香りづけをしています。
ルビーナイル
(アンバーエール 7%)
古代から1920年ごろまでエジプトで栽培されていた謎の品種「ピラミダーレ小麦」を、京都大学の栽培植物起源学研究室の保存庫から復活させて使用した、赤褐色のビールです。
サイファーナイル
(ビアテイスト飲料 0%)
デュラム小麦を使用し、ナイルシリーズの味を再現したノンアルコールのビアテイスト飲料です。黄桜、京都大学、早稲田大学が共同で開発しました。

その他限定商品

銘柄味の印象
丹波の黒豆
(フィールドビール 5%)
最高級の黒豆として有名な丹波黒を副原料にしたビールです。黒豆は麦芽の一部と共に一旦茹でてから使われ、独特の香ばしい風味をビールに与えています。
フレッシュチェリー
(フルーツビール 5%)
サクランボを漬け込んだ春限定のフルーツビールです。ルビーレッドの鮮やかな色合いと、甘酸っぱい味わいが持ち味で、ビールが苦手な女性にも楽しんでもらえるお酒です。
ビアショコラ
(チョコビール 7%)
ココアパウダーを加えてチョコの色と香りを加えた冬季限定ビールです。冷やさず室温で、こたつやストーブでゆっくりと飲むのが一番おいしいタイプです。
パンプキン
(パンプキンビール 5%)
名前の如くカボチャを使った秋限定製品です。アメリカで人気のスタイルで、カボチャの風味でビールの苦みが抑えられ、予想に反してかなり飲みやすく癖が無い味です。

キンシ正宗株式会社

キンシ正宗株式会社

設立は1781年(天明元年)で、230年以上に渡って酒を造りつけてきた貴重な老舗企業です。ビールの醸造を始めたのは1997年からで、登場から2年後にはジャパンビアカップで銀賞を受賞するなど、その基礎ポテンシャルの高さがうかがえます。
醸造所は昔ながらの酒蔵にビール用設備を持ち込んだものであり、水は清酒の仕込みに用いる「桃の井」の名水を使うこだわりを見せています。清酒に使う水はミネラル分が少ない軟水で、日本で一般的なラガー系統のビールも主に軟水で作られます。
しかし、キンシ正宗ではあえて、普通は硬水で作られるエール系のビールだけをラインナップに入れており、外国のビールを京都の食事に合う日本風のスタイルへと作り変えています。

ビールそのものも素晴らしいのですが、瓶についても目を引くところがあります。通常の330mml瓶に加え、クラフトビールでは珍しい1リットル瓶も販売しています。

キンシ正宗 1リットル瓶

この1リットル瓶は取っ手付きの三角錐の形状をしており、王冠とは別にボトルキャップが付属しています。一度で飲みきれなくても、キャップを閉めて冷蔵庫に入れておけば数日間は保存しておけます。一人でゆっくり飲んだり、贈り物にしたりと、普通のビールとはちょっと違う楽しみ方が出来そうです。

銘柄味の印象
京都町家麦酒 かるおす
(ケルシュ 5%)
蔵元が作るビールで定番のケルシュ。酵母を生かすために非加熱なので、賞味期限はやや短めです。
京都花街麦酒 まったり
(アルト 5%)
ケルシュと並ぶ定番のアルトスタイル。花街をイメージさせるあでやかなルビー色をしています。
京都平安麦酒 くろおす
(ドライスタウト 5%)
清酒メーカーのビールとしては珍しい、重厚な黒のエールビールです。

丹後王国「食のみやこ」

丹後王国「食のみやこ」

丹後王国「食のみやこ」は、京都市弥栄町にある道の駅です。道の駅としては西日本最大の規模を持ち、カフェやレストランが11店舗、お菓子から野菜を販売するショップが入った複合施設です。敷地面積は甲子園球場8つ分にもなり、サイクリングやゴーカートが出来るパーク、果樹園や農園、牧場、小さな動物園までそろっているので、道の駅といいながら、一日中楽しめるテーマパークの様になっています。

「丹後クラフトビール」は食の都施設内部の醸造所で製造されるオリジナルのクラフトビールで、ラインナップは全部で七種です。レストラン「七姫伝」で飲むことが出来るほか、食のみやこ内のショップ、あるいは公式ウェブサイトで購入できます。
瓶は一つずつ専用のボックスに入れられ、セットなら専用の化粧箱もついてきます。ラベルと箱にはあしらわれた女性たちは、丹後七姫は丹後にゆかりがあったとされる伝説・実話上の女性たち(羽衣天女、乙姫、間人皇后、静御前、小野小町、安寿姫、細川ガラシャ)で、「丹後七姫」と呼ばれています。

今後は定番7種に加えて新しいビールを製造する予定となっているそうです。

銘柄味の印象
ピルスナー
(ピルスナー 5%)
日本のビールで一般的なドイツ風ではなく、より原型に近いチェコ風のピルスナーです。チェコ産のホップを使い、ドイツ風よりもドライさが少ない味に仕立ててあります。
マイスター
(ピルスナー 5%)
名前は「米(マイ)スター」の意味で、その名の丹後のコシヒカリを副原料に使ったビールです。
スモーク
(ラオホ 5%)
煙で燻した麦芽を使ったドイツ由来のビールで、独特の燻製のような香りと苦みを持ちます。日本のブルワリーでは作っている所がほとんどなく、かなりレアな存在です。
ロンドンエール
(ペールエール 5%)
イギリスで人気の職人のエールビールの代表格。山口さんが修行中にロンドンで飲んだペールエールを越えたいという思いから、この名前を付けたそうです。
アンバーエール
(アンバーエール 5%)
褐色になるまで焙燥した麦芽を使ったエールです。アメリカ産カスケードホップの柑橘風の香りと、濃い目の麦芽の味が持ち味です。肉料理のお供にどうぞ。
ヴァイツェン
(クリスタルヴァイツェン 5%)
小麦を使った甘いドイツ産のビール。通常は小麦のたんぱく質でうっすらと濁っていますが、濾過することで透明にするとともに、よりすっきりした味にしている点が他と違います。
メルツェン
(メルツェン 5%)
3月(メルツェン)に仕込んで10月のお祭りの時に飲み干すことから名づけられたドイツのビールです。ミュンヘンのオクトーバーフェストで供されるのはこのビールです。

京都醸造株式会社(Kyoto Brewing Company)

京都醸造株式会社

京都醸造株式会社(通称KBC)は南区西九条に本拠地を置く新鋭のクラフトブルワリーです。
昔の羅城門があった場所のすぐ南、平安京のすぐ外側という位置にありますが、古くからの酒蔵でもなく、それどころか創立者はアメリカ人のクリス、ウェールズ人のベン、カナダ人の三人のポールの三人の外国人。日本に来て意気投合した三人は、会議という名の飲み会を行ううちに「日本大手のビールはおいしいけれど、足りないものがある」と考え、もっといろいろなビールがあることを日本の人に知ってもらうべくKBCを設立したとのことです。

ビールの特徴はベルギー産の酵母と、アメリカ産のホップを使う所です。ベルギービールの酵母は果実のような芳しく華のある香りをもつエステルを生産し、アメリカのホップはグレープフルーツを連想させる爽やかな香りが持ち味です。これらを組み合わせ、非常に果実感あふれる独自のビールを作り出しています。

これらのビールは一般販売されておらず、出荷されているのは飲食店に卸す樽生のみです。いつでもKBCのビールが飲める「常設タップ」のお店は、京都、大阪、東京、神奈川にあります。京都の常設タップのお店が一番多く、京都市内の南側に集中してあるので、飲みたいときはこの場所に行くのが良いでしょう。
それ以外にも、工場に併設された試飲スペースで飲むことも出来ます。営業は土日13:00~18:00(LO 17:30)で価格は、1杯(400ml)につき600円です。

定番シリーズ

銘柄味の印象
なごり雲
(ヘフェヴァイツェン 4.9%)
小麦のたんぱく質と酵母によって雲の様にうっすらと濁ったドイツビール。本場物よりも少しドライな味に仕上げ、滑らかさとさわやかさが同居する飲みやすいビールにしてあります。
一意専心
(ブレンドビール 6.5%)
ベルギービールとアメリカビールをブレンドして作った、オリジナルのビールです。酵母とホップの華やかな香りを持ちつつ、苦すぎない味に調整されているのが特徴です。
一期一会
(セゾン 4.9%)
ベルギーの農家が夏に飲むために作ったスタイルのビールで、ホップが強めに利かされています。KBCは特にこのスタイルのビールに思い入れがあるとしています。
黒潮の如く
(ベルジャン・スタウト 4.8%)
アイルランドのビールであるスタウトを、ベルギーの酵母で作った変わり種の黒。ロースト麦芽のチョコのような香ばしさと、酵母由来のフルーツ感が合わさった深い味です。

限定醸造シリーズ

銘柄味の印象
欧州の風
(ベルジャン・ブロンドエール 4.7%)
京都の水を使い、ドイツの麦芽、ベルギーの酵母、アメリカのホップを使って作られた、欧州をイメージしたエールビールです。
熱帯波の嵐
(アメリカンIPA 7%)
ホップを強めに利かせたアメリカンIPAで、ドイツ産とイギリス産のホップを使うことで、他の物よりも麦芽の風味を強めに出しています。
維新伝心
(セゾン 5.6%)
ベルギーのスパイシーなホップの代わりに、もっと果実感あふれるトロピカルなアメリカ産ホップを使った、新世代のオリジナルなセゾンビールです。
週休6日
(ベルジャン・セッション・ペールエール 4.5%)
オーストラリア産とフランス産のホップを使用し、ホップの風味を強く保ってドライな風味を醸し出しつつ、アルコール度数が低くお代わりしやすい味に作られたエールです。

黄桜の「京都麦酒」「ナイル」シリーズは近畿地方のスーパーでは比較的よく見かけるため、手に入れやすい製品です。料理にも合わせやすく、挑戦しても外れと感じることはまずないでしょう。
キンシ正宗の京都町家麦酒や、食のみやこの「丹後七姫」シリーズも通販で売られており、自分で飲むだけでなく贈り物にも適したビールです。
KBCの製品は一般販売されていませんが、京都観光の際には、伝統ある都の外れでおしゃれなビールを飲むのも一興かもしれません。

次回は日本の農業の中心、北海道のクラフトブルワリーを紹介します。

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