吟醸ビール:清酒と麦酒のマリアージュ

吟醸ビール:清酒と麦酒のマリアージュ

吟醸ビールは、発酵に日本酒の醸造に使われる酵母、いわゆる「清酒酵母」を用いたビールです。酒イーストビールとも呼ばれ、英語でも「Ginjo Beer」「SAKE Yeast Beer」で通じます。

日本酒の酵母でビール?と疑問に思うかもしれませんが、それほどおかしなことではありません。ビール、ワイン、日本酒、さらにはパンに至るまで、使用されている酵母菌(イースト)は基本的にほとんど同一の種だからです。

吟醸ビール

何故、日本酒の酵母でビールが出来るのか?

何故、日本酒の酵母でビールが出来るのか?

酵母はキノコやカビなどと同じ、胞子で増える菌類に属します。酒やパン作りに使われるものは、基本的にはその中の「Saccharomyces cerevisiae(サッカロミケス・ケレウィシアエ)」という種を指します。
日本酒の酵母、ワインの酵母というのは、同じケレウィシアエの中で、最適な性質を持つ亜種(種の中の区分)物を人間が選び出し、選別して純粋培養したものです。ちょうど、イヌを選別して品種改良し、番犬に適したドーベルマンや、アナグマ狩りに適したダックスフントを作り出した経緯とよく似ています。

ド―ベルマンもダックスフントも同じ「犬」であるように、ビールの酵母も日本酒の酵母も同じ「S.ケレウィシアエ」で、品種ごとで遺伝子は1%程度しか違いません。人間が勝手に選別して用途を決めただけなので、日本酒を作るために使われている酵母でも、一応は麦芽の糖をアルコールと炭酸に変えて、ビールを作ることが可能です。

酒の個性を形作る酵母の品種

チワワとハスキーが同じ犬でも全然違う種に見えるように、同じ酵母といえども品種ごとに特性が大きく異なっています。
糖を食べてアルコールを作り出す部分は共通していますが、酵母も品種ごとに、活発な温度、アルコールを作る効率、作り出す「エステル」の量など、様々な違いがあります。ただし、日本酒の酵母はビール用の麦汁の中ではフルに能力を発揮できないものもいるので、製品としてビールを作れる品種は限られています。

このエステル(カルボン酸エステル)は、マンゴーやバナナの香りの成分と同じで、人工的な香りをつけるときにも使われています。また、これら以外にも品種によって異なる種類や量の有機物を生成し、同じ材料から別物に思えるような香りを生み出します。これらの副産物が、麦とホップしか使われていないはずのビールが、フルーティーな香りを持つ理由です。

日本酒の特徴である甘みのある華やかな「吟醸香」も、酵母が作る「酢酸イソアミル」や「カプロン酸エチル」といった有機物の産物です。日本酒の酵母はこうした物質をたくさん作りだすように選別・改良されています。

吟醸ビールの特徴

吟醸ビールの最大の特徴は、何といっても吟醸香がするところです。
このビールの香りを嗅いだとき、ビールらしいホップの香りと共に、何か良く知っているような、なじみがある香りがすることに気が付きます。外国の人にとっては、吟醸香は不思議なフルーティーさとして感じられるようで、”やさしい木香”、”茸の幽美な味”、”アミノ酸の旨味”などと表現されています。

これら日本酒特有の香りと、ビールのホップ・麦芽の香りや苦み、甘みがマッチしていることが、日本酒酵母ビールの必須条件です。それ以外の部分で、色や度数については特に決まりがなく、ライトラガーのような薄い色から、デュンケルのような濃い色まで、度数も弱めの3.4%からストロングエール並みの8%まで何でもありです。
時にはビール酵母も併用されますが、日本酒の特性を消さないならエールの酵母でもラガーの酵母でも、どちらを利用しても良いとされています。

ビールと日本酒を合体させるときの正解は、必ずしも一つではないということでしょう。

項目詳細
原産地日本
発酵の種類ハイブリッド
麦わら色~濃い茶色
アルコール度数3.4~8.2%
麦、ホップ以外の原料米などを使う物がある
最適温度9度
有名な銘柄(日本)京都麦酒 蔵のかほり(黄桜)
常陸野ネストビール レッドライスエール(木内酒造)
大吟醸 政子(反射炉ビヤ)
あきた吟醸ビール(あくらビール)
など

吟醸ビールの味

日本の「生きた」伝統

日本の「生きた」伝統

酵母は家畜や作物と同じように、古くから人間と共にあった生き物です。清酒の酵母も、昔から脈々と受け継がれてきたものを保存しつつ、改良が繰り返されています。
日本の清酒酵母は、日本醸造協会が開発・保有する協会酵母、地方自治体が開発したもの、それぞれの酒蔵が伝統的に保有する「蔵つき酵母」があります。黄桜や木内酒造などの伝統的な酒蔵の吟醸ビールは、伝統の日本酒醸造ノウハウと蔵つき酵母を使って作られています

まさに日本の伝統と西洋の酒の融合です。

ちなみに、通常の酵母は泡を出しますが、昭和になると日本で「泡なし酵母」が作られました。二酸化炭素を作る分の成分がアルコール生成に回されるので、辛口の酒も作りやすいところが利点です。
日本酒の場合はそれでもよかったのですが、ビールの場合は炭酸が出ないと意味がないので、日本酒酵母ビールでは必ず泡あり酵母が使われます。日本酒酵母ビールは、より古い伝統ある形質を保った酵母だからこそ作ることができるということです。

次回は野生の酵母を使って作られるベルギーのビール「ランビック」を紹介します。

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