山が生み出す湧き水が秘訣:山梨県のクラフトブルワリー

山が生み出す湧き水が秘訣:山梨県のクラフトブルワリー

山梨県のクラフトブルワリー

富士山で有名な山梨県は、面積の80%が山岳地という山の県です。これらの山に降った雨は火山灰地層に浸透し、長い年月を経て磨かれ、きれいな伏流水としてふもとから湧き出ています。
良質な水が湧き出る条件が整っているため、山梨県は日本のミネラルウォーターの40%を生産する水の県でもあります。首都圏に近い事も相まって、多くの飲料メーカーが南アルプス山麓や富士山周辺、三ツ峠などで水を採取していることで有名です。

ビールの生産においてもきれいな水は欠かせないので、水が豊富な山梨県はクラフトビールを作るのに適した土地といえます。この地に拠点を置くクラフトブルワリーは、それぞれが自分の所で掘削・採取する水を利用しているのが特徴です。
今日では世界中に広がっているラガーもペールエールも、それぞれが土地の水の性質を活かしたことで生まれたビールであり、いかにビールにとって水が重要であるかを示しています。
水にこだわる山梨県のクラフトブルワリーもビール作りの実力が高く、ビール品評会の世界最高峰であるワールド・ビア・カップ、ワールド・ビア・アワードなどで金賞や第一位を獲得しています。

富士桜高原麦酒

富士桜高原麦酒

富士桜高原麦酒は富士河口湖町にある、富士観光開発株式会社が製造するビールブランドです。1998年に醸造を開始し、早くも翌年にはジャパン・ビア・カップでの入賞を果たしています。
仕込みに使う水には、富士山に降った雨が十数年の歳月を経て地下で磨かれた後に湧出する「富士桜命水」を使用しており、これが醸造所の名の由来になっています。醸造技術はドイツで100年以上の歴史を持つ国家認定校「デーメンス醸造専門学校」で培ったものです。
その技術の高さは、アメリカで開催される世界最大のビール品評会「ワールド・ビア・カップ」での金賞受賞や、イギリスで開催される「ワールド・ビア・アワード」での世界一位獲得、アジア・ビア・カップでの16年連続金賞受賞などの実績が証明しています。

製造するビールは全てドイツ系で、定番商品に燻製ビール「ラオホ」、黒い白ビール「シュヴァルツヴァイツェン」が入っています。この種のビールを定番として製造販売している醸造所はかなり珍しく、貴重な存在です。
季節限定のビールでは、高アルコールラガー「ボック」の系統が充実しています。こちらも「ヴァイツェンボック」「ラオホボック」など、日本では珍しいスタイルのビールばかりです。

銘柄味の印象
ピルス
(ピルスナー 5%)
日本でもおなじみの、ホップを利かせた「ジャーマンピルスナー」スタイルのビール。麦汁を煮沸する工程で、3種類のホップを4回に分けて投入することで、苦みだけでなく新鮮で華やか、かつわずかにスパイシーな香りを引き出してあります。
ヴァイツェン
(5.5%ヘフェヴァイツェン 5.5%)
原料の50%以上に小麦の麦芽を使用した、ドイツのバイエルン地方生まれの白ビール。酵母が生み出す甘い香りと、細かく弾力のある泡が特徴です。苦くない所が最大の魅力といえるでしょう。
ラオホ
(ラオホ 5.5%)
ドイツのバンベルグ特産のビールで、麦芽をローストする際にブナのチップを燃やした火で直接焙り、燻製にした麦芽で作られています。日本では作っている醸造所が少なく、定番商品としている所はさらに希少です。煙の香りがあふれる通の品。
シュヴァルツヴァイツェン
(シュヴァルツヴァイツェン 5.2%)
強くローストした麦芽を原料の一部に使用したヴァイツェンで、いわゆる「黒い白ビール」。白ビールの柔らかな甘さとクローヴのような香り、黒ビールのカラメルのようなコクが調和した、複雑な味が特徴です。酸味を抑える独自の製法で、切れの良い飲みやすさを作っています。実は苦み指数がピルスの半分程度です。

季節限定商品

銘柄味の印象
プレミアムピルスナー
(ピルスナー 5.5%)
ドイツ産のハラタウホップなど三種類のホップを多く使用した、プレミアムなビールです。麦芽の旨味をホップの香りはそのままに、55ものIBU(国際苦み指数。ピルスは30)のある切れのある苦みを出しています。
ラオホボック
(ラオホ/ボック 7%)
ラオホをベースとし、麦芽の量を増やして長期熟成することで作り上げたオリジナルレシピのビールです。7%の度数、燻製の香り、麦芽の味の濃厚さ、ロースト麦芽の苦みが「ザ・ストロング」な、世界が認めるビールです。
メルツェン
(メルツェン 6%)
メルツェンとはドイツ語で「3月」の意味で、3月に仕込んで10月のオクトーバーフェストに飲み干すことから「オクトーバーフェスト」とも呼ばれます。夏の間に傷んでしまわないように濃い目に作られており、強めのボディとやや高めの度数、カラメル麦芽の甘みが特徴です。
マンダリナバーバリア
(ヴァイツェン 5.2%)
ドイツ産の新品種ホップ「マンダリナバーバリア」だけを使用して作ったヴァイツェンです。マンダリナバーバリアはその名の通りマンダリオンオレンジのような香りが特徴で、ヴァイツェンの香りにさらなるフルーティーさをプラスしています。
ミュンヘンラガー
(ヘレス 5%)
ミュンヘンで有名なラガー系のビールで、名前は「明るい」という意味です。ピルスナーに似ていますが、ピルスナーがホップの苦みを利かせているのに対し、へレスは苦みを控えめにして麦芽の軽やかな旨味と香りを押し出している点が特徴です。
ダークラガー
(シュヴァルツ 5.5%)
ドイツ発祥のラガー系黒ビールです。ロースト麦芽の重量感のある口当たりに、わずかな甘みが感じられます。苦みは比較的抑えつつ、ラガーらしい切れの良さが印象的です。
さくらボック
(ドッペルボック 8%)
通常の2倍(ダブル=ドッペル)の量の麦芽を使用し、3か月間の熟成を経て作られるフルボディの強ビール。黒糖のような濃厚な香り、麦芽の甘みを持ちます。春の限定商品です。
ヴァイツェンボック
(ヴァイツェンボック 7%)
こちらはボックのヴァイツェン版で、クリスマスシーズンの限定商品です。ヴァイツェンの甘みと香りがさらに強調され、口に含んだ瞬間からその個性がはっきりと分かります。まったりと甘い、冬によく合うビールです。

OUTSIDER BREWING

OUTSIDER BREWING

アウトサイダーブルーイングは2012年に醸造を開始した、比較的新しい醸造所です。
オーナーであるマーク・メイジャー氏による醸造士の募集に、醸造家の丹羽智氏が応えたことで発足しました。丹羽氏は岐阜の博石館ビールで13年、岩手の「いわて蔵ビール」で2年醸造に携わったベテランで、技術の高さは折り紙付きです。
高い技術と経験を活かすことで作られるビールは、野生酵母を使って発酵させたワイルドビールや、14度の高アルコールビールなど個性的なものが多く、普通のラガーやペールエールでも他とは違うちょっとした工夫を利かせています。

醸造所は甲府市中央にあるミヤザワビルの1階にあり、2階が直営のブルーパブ「ホップス・アンド・ハーブス」となっています。ビールは樽生でしか販売されておらず、飲みたければ直営店を訪れるのが最も確実です。
メイジャー氏がオーナーを務める姉妹店「The Vault」が甲府市丸の内の武藤ビルにあり、そちらでも飲むことができます。The Vaultは席数51席の大きな店で、アウトサイダー以外に世界中のビールが用意されています。

銘柄味の印象
インキーパー・ビター・ラガー
(ラガー 6%)
ドイツ産のテトナガーホップを使った、本格的なジャーマンスタイルのラガービールです。普通のビールは度数が5%、IBUは20~25程度ですが、こちらは度数6%、IBUが30と、一味違う力強さを持つラガーになっています。
フランダース・ベルジャン・ホワイト
(ベルジャンホワイト 5.5%)
小麦を使ったベルギー風の白ビールで、オレンジピールやコリアンダーシードのような香りが特徴です。IBUはわずか9。つまりほとんど苦くないということで、「ビールは苦いから嫌い」という人にもうってつけです。
ザ・カウンティーズ・ペール・エール
(ペールエール 5.5%)
イギリスのバートン・アポン・トレントで生まれた、エールビールの代表格ともいえるビールです。琥珀色の見た目とフルーツのような香り、ほろ苦い味わいが印象的。香りづけに使うホップは、ちょっと珍しいスロベニア産の「スティリアン・ゴールディングス」という品種です。
バンイップ・オーストラリア・IPA
(IPA 6.5%)
オーストラリア産のカスケードホップだけを使用して作ったビールです。ホップを大量に使用しており、カスケード品種が持つ柑橘のような香り、そしてほとばしる鮮烈な苦みが印象的です。
ドランク・マンク・トリプル
(ベルジャン・トリペル 8%)
トリペルはベルギーの修道院が製造・販売している、明るい色の高アルコールビールです。院内で飲まれるビールはもっと度数が低く、トリペルは販売用なので、間違えて修道士がこれを飲み続ければ、名前の通り「酔っ払い修道士」になることでしょう。
ザ・ダーク・サイド・インペリアル・スタウト
(インペリアルスタウト 8%)
漆黒の色合いとダーク・サイドの名が、赤く光る剣を使う“あの人物”のいる銀河の帝国をイメージさせてくれます。実際は、アイルランド発祥のスタウトの高アルコール版が、帝政ロシア時代の皇室で人気を博し、輸出が積極的に行われたことからこの名前がつきました。

八ヶ岳ビール・タッチダウン

八ヶ岳ビール タッチダウン

八ヶ岳ビールは北杜市清里にある「萌木の村」のレストラン「ロック」の地下で醸造されているビールです。
醸造長の山田一已氏はキリンの「一番搾り」や「ハートランド」の開発責任者を担当した人物で、日本最高峰のビール職人です。山田氏はキリンを退職後、萌木の村の村長である舩木氏にリクルートされて、八ヶ岳ブルワリーの設立に参加しました。
タッチダウンの名は舩木氏と、彼に山田氏を紹介したスズキインターナショナルの社長である鈴木智之氏が、フットボール協会の会員であったことに由来します。また、清里の開拓を行ったポール・ラッシュ博士がアメフトを日本に導入した人物であるという、不思議な縁もあるとのことです。

残念ながら2016年8月にロックで火災が発生し、ビールの製造ができなくなっています。幸いにして人的被害はなく、焼失したのは1階のレストラン部分だけで、地下の醸造所はダメージが少なかったようです。
2017年4月上旬からビールの製造は再開され、1カ月の醸造・熟成期間を経て、順次ラインナップに再掲載される見込みとなっています。

銘柄味の印象
ピルスナー
(ピルスナー 5.5%)
八ヶ岳ビールの中で最初に作られたビールです。チェコ産のザーツホップと、ミュンヘン工科大学ヴァイヘンシュテファン醸造研究所の門外不出の特別な酵母、八ヶ岳の硬水を使用しており、香ばしさとバナナのようなフルーティーな香り、穏やかで快い苦みを持ち合わせた、特別なビールになっています。
デュンケル
(デュンケル 6%)
ローストしたカラメル麦芽を使用して作る濃色のラガーで、名前はドイツ語で「暗い」という意味です。麦芽のコクと甘みによって苦みが弱くなり、全体的に濃い味わいになっています。
清里ラガー
(ラガー 5.5%)
材料に麦芽と共にコーンスターチと米を使用し、爽快さと飲みやすさを向上させた、ややライトなビールです。米は硫黄分を調整する作用を持っており、米を使用することで、麦芽100%のビールに比べるとまろやかな味わいにすることができます。
プレミアム・ロック
(ボック 7%)
40%増しの量の麦芽を使用し、熟成も通常4週間のところを2倍の時間を費やして作り上げた、プレミアムなビールです。麦芽の濃い味が特徴で、時間を掛けて飲むうちに温度が上がって変化する味が楽しめます。2016年のワールド・ビア・アワードのロック部門で一位を受賞した、世界が認めた味です。
アルト
(アルト 5.5%)
八ヶ岳ビールの商品の中で、唯一のエールビールです。軽くローストした麦芽によるほんのりとした甘さ、そしてエール特有の華やかな香り、低温熟成によるラガーのようなスッキリ感を併せ持っています。
ショコラ シュバルツ
(シュヴァルツ 5.5%)
バレンタイン限定の黒いラガービール。強くローストした麦芽に由来する、カカオのような香りと、苦み、そしてかすかな甘みが、ビターチョコレートを連想させるビールです。2014年度の春季全国酒類コンクールの、ビール部門において総合一位を獲得しています。

次回は群馬県のクラフトブルワリーを見ていきましょう。

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