伊達者達の粋なブルワリー:宮城県のクラフトブルワリー

伊達者達の粋なブルワリー:宮城県のクラフトブルワリー

宮城県のクラフトブルワリー

宮城といえば何といっても仙台藩初代藩主の伊達政宗です。三日月の飾りを付けた兜と眼帯の戦国武将としてのイメージが強い政宗ですが、実は漢詩や和歌、芸能にも精通した文化・知識人でもあり、豪華で男らしい粋な人物を指す伊達者という言葉の元となっています。
また政宗は酒も大好物であったことが知られています。味にこだわって城に醸造所を作らせ、さらに全国の杜氏を招聘したり、逆に他の地域の醸造法を勉強させるために自国の技術者を派遣したりと、料理研究が趣味の美食家らしいエピソードがあります(もっとも、当人は酒に強いわけではなかったようですが)。

そんな伊達者の本場である宮城のクラフトブルワリーは、政宗と同じように研究熱心で、海外の施設や技術を取り入れて良いビールを作ることにこだわっている場所ばかりです。
ドイツから設備、材料のみならず技術者まで呼んで「本物の」ビールに取り組んでいる所もあれば、果実酒のような風味のビールをスタイリッシュなボトルに詰めた製品を作るところまでいろいろです。取り組み方はさまざまであるものの、揃って独自の格好良さがあります。
また、元々はビールとは別の事業をしていた会社や、観光関係の事業と協力している企業も多く、宮城に行ったときにお土産として購入しやすいのも特徴です。

松島ブリューイングカンパニー

松島ブリューイング

松島ブリューイングカンパニーは1997年9月に宮城県におけるクラフトブルワリー第一号として設立されました。設立の際にはドイツから最高峰の設備を直輸入し、ブルーウマイスターのラルフ・ブランデス氏を招いて技術指導を受けています。
ドイツのブルーマイスターは醸造所に3年弟子入りして、その上で3年の研修を経た後に、醸造ばかりでなく経営、経理、指導など約1か月間の試験に合格して初めて認定が受けられる国家資格です。
ただブームにのって土産物を作ろうとしたのではなく、最初から100%本気でビール醸造に取り組む姿勢は政宗のエピソードを彷彿とさせます。

メインブランドの松島ビールは瓶入りが基本ですが、2016年から300mlのアルミボトルの販売も始まり、手軽さと保存性の良さがアップしました。
もう一つのブランドの伊達政宗麦酒は長沼環境開発株式会社のブランドでしたが、2010年からは松島ブリューイングに生産が移行されました。こちらは全てのラインナップがアルミボトルです。
設立元であるサンケーヘルス株式会社は松島ブリューイングの設立と共に、温泉とビールの複合施設「夢実の国」を設立しています。もちろん松島ビールを飲むことが出来るようになっているので、お風呂上りが楽しみになります。

銘柄味の印象
松島ビール ヘレス
(ヘレス 5.5%)
ミュンヘン生まれの金色のラガー。チェコ産ホップを100%使用しています。良く知っている見た目と香りでだからこそ安心して楽しめ、なおかつ他よりもレベルが高い本場の味です。
松島ビール ヴァイツェン
(ヘフェヴァイツェン 5.5%)
苦いビールが苦手な人にも人気の白ビール。小麦のたんぱく質と酵母によってうっすらと濁った独特な見た目が特徴で、あっさりとしつつ南国の果実に似た甘い香りがあります。
松島ビール デュンケル
(デュンケル 5.5%)
ローストした麦芽を使用した濃い褐色のビール。深いコクと苦みがありつつ、ラガービールとしてのスッキリ感を併せ持ち、肉料理との相性が良好です。
松島ビール ボック
(ボック 7%)
ドイツ生まれの高アルコールラガーです。通常のビールの1.5倍の量の麦芽を使って濃く抽出した麦汁を使い、2倍の熟成期間を経ることで作られます。苦く、濃く、そして強い、最も印象に残るビールといえます。

奥州仙台麦酒

銘柄味の印象
伊達政宗麦酒 ヴァイツェン
(ヘフェヴァイツェン 5%)
言わずと知れた伊達藩六十二万石の初代藩主の名を冠したヴァイツェン。日本人好みの清涼感のある味に調整されています。ラベルには政宗の兜に使われていた三日月があしらわれています。
支倉常長麦酒 ピルスナー
(ピルスナー 5%)
日本人になじみが深い、ホップの利いた金色のラガー。支倉常長は伊達家の家臣で、スペイン経由でローマと行き来し、アジア人として唯一無二のローマ貴族、及びフランシスコ派カトリック教徒となった人物です。
片倉小十郎麦酒 ケルシュ
(ケルシュ 5%)
ケルン特産のビールで、エールの香りとラガーの爽快さを併せ持つハイブリッドビールです。片倉小十郎景綱は伊達家の家臣の一人で、政宗の近習となり、のち軍師的役割も果たした重要人物です。

限定ビール

銘柄味の印象
サンファンビール
(デュンケル 5.5%)
サンファンは慶長18年(1613年)に伊達政宗がノビスパニア(メキシコ)との直接貿易のために建造させた帆船で、日本で初めて太平洋2往復に成功しました。
サンファンビールはサンファン建造400周年を記念して作られており、4種類のドイツ麦芽とホップで作る正統派デュンケルのスタイルをしています。

地発泡酒 鳴子の風

地発泡酒 鳴子の風

地発泡酒「鳴子の風」は大崎市鳴子温泉にある「鳴子温泉ブルワリー」のビールブランドです。地「発泡酒」という名称からわかるように、あえて日本の法律では発泡酒として分類されるスタイルのビール造りにこだわっています。

定番商品は3種類だけですが、イベント限定品としてパイナップルやグレープフルーツを使ったビールを作っていたこともあります。パイナップルもグレープフルーツも、日本はおろか世界的に見てもフルーツビールの素材としては珍しい物です。
また、鳴子の風では発泡酒だけでなく濾過せずに作る「どぶろく」も定番ラインナップに入っています。最近では清酒の酒蔵がビールを作るのは普通になっていますが、ブルワリーがどぶろくを作るというのはあまりありません。
ビールや清酒といったメインストリームではなく、一ランク落ちるという偏見を持たれがちなお酒に焦点を当てて良い物を作ろうとする点が、いかにも粋なブルワリーです。

銘柄味の印象
高原ラガー
(発泡酒 5%)
大麦麦芽を十分使い、クリーミーな泡立ちも持たせた贅沢な発泡酒。インターナショナルビアコンペティションのフリースタイルラガーで金賞を受賞しており、十二分に「おいしいビール」としての実力を持っていることがうかがえます。
山ぶどう
(フルーツビール 5%)
山ぶどうを使ったワインカクテル風のビールで、きれいな葡萄色(えびいろ)をしています。ワインと違って酵母の濁りがあるのがビールの証です。山ぶどうはブドウに比べて、リンゴ酸、ビタミンB6、鉄分が5倍、カルシウムが数倍あり、健康食として期待されています。
ゆきむすび
(発泡酒 5%)
鳴子の風シリーズの中で最も人気があるオリジナルビール。大麦麦芽と小麦麦芽に、鳴子産の米「ゆきむすび」を加えて作っています。酸味と甘みが強く、ビールというよりもシャンパンのような雰囲気があり、米シャンパンビールとでもいうべき独自の味です。

鳥の海ブルワリー

鳥の海ブルワリー

鳥の海ブルワリーは日本では珍しく、果物を使用したフルーツビールを主力商品とするブルワリーです。所在地の亘理(わたり)郡はイチゴの産地として有名であり、第一次クラフトビールブームの際にイチゴを使った発泡酒を作ろうという思いから設立されました。
フルーツビールは熟成中のビールに果汁や果物を加え、味や香りを抽出するとともに糖を二次発酵させることで作るビールです。果実酒のような甘さを持ちますが、二次発酵によってアルコールと炭酸が普通のビールよりも強くなっています。

鳥の海ブルワリーのフルーツビールでは糖度40~60度の甘い果物を原料に使い、3か月間もの熟成期間(通常のビールは2週間)を経て作られています。果物の二次発酵の際にはワイン用の酵母を使うことで、他にはない香りを作りだしています。
ビールの原料もイギリスから輸入した酵母と濃縮麦汁、チェコ産のホップペレット、アメリカ産のワイン酵母と高価な本場物で、仕込みは加賀の医王山で採れる喜王石で濾過した水で行うなど、かなりのこだわりを見せています。
何よりインパクトが強いのは、すらりとしたデザインの瓶です。中身の美しい色、甘い香りと味も合わせ、初めて飲む人にはこれがビールだとはとても信じられないことでしょう。

銘柄味の印象
スパークリングフルーツ
<苺>
(フルーツビール 6%)
亘理の特産であるイチゴを使ったフルーツビールです。一次発酵にビール酵母、二次発酵にシャンパン酵母を使うことで生み出された香りを持ち、開発には10年もの時間を要したとのこと。500リットルのビールを造るのに、 125リットルのイチゴ果汁を使っています。イチゴらしい酸味のある味が印象的。
スパークリングフルーツ
<桃>
(フルーツビール 6.5%)
糖度40度の甘いモモを原料にしています。苺よりも甘みが強く、色も白ビールのような淡さがありますが、アルコールは6.5%とビールにしては強めです。
スパークリングフルーツ
<葡萄>
(フルーツビール 6.8%)
ブドウとワインの酵母を使い、おまけに色も赤いですが、れっきとしたビールです。ブドウは糖度55度のかなり甘い物を使いつつも、全体的に甘すぎず、バランスの良い上品な味に仕上げてあります。
スパークリングフルーツ
<林檎>
(フルーツビール 6.8%)
リンゴを使ったアップルビールで、こちらも原料の果物は糖度50%を超える甘い物を使っています。リンゴのビールはイチゴやモモに比べると酸味が低いために、より甘みが強く感じられる傾向があります。
奥州仙臺六十二万石
<仙臺ラガー>
(ラガー 5%)
鳥の海ビールでは唯一の「普通のビール」。セットに入っているので、甘いビールを飲んだ後の口なおしにどうぞ。

今回紹介できたのは3社だけですが、宮城には他にも優れたブルワリーが存在しています。
薬莱振興公社の「やくらいビール」は、インターナショナルビアコンペティション(IBC)2004で金賞を受賞したピルスナーを作っています。ピルスナー部門は出品数が最も多く競争が厳しく、そこで優勝できるということがその実力を証明しています。

JA宮城仙南が運営する「仙南シンケンファクトリー」は、ヴァイツェンやスタウトといった定番に加え、古代米エールといった独自のビールを作っているブルワリーです。こちらも2014年だけでも2部門で入賞を果たしています。

仙南シンケンファクトリーはレストランや醸造所、ハム・ソーセージ工場、特産品店が一体化した複合施設で、内部のビアレストラン「ドイチェスハウス」で出来立てビールを楽しめます。

次回は東北きっての観光名所である山形県のクラフトブルワリーを紹介していきます。

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