ビールとは何か?何からできているのか?

ビールとは何か?何からできているのか?

ビールは「麦とホップから作られているお酒」ということはご存じの方も多いかもしれません。

しかし、「これがビールである」という厳密な定義をするのは少し難しいところです。また、原料として具体的にどんな麦を、どのように使うのか、ホップとはいったい何なのかということについては、詳しく語られることはあまりないでしょう。

今回はビールとは何か?そしてビールにはどのようなものが原料として使われているのかを紹介します。

ビールづくり

ビールの定義

ビールとは何かといわれれば、一言でいうなら「麦から作った醸造酒」となります。
日本でのビールの定義は、お酒についてのいろいろなことを定めた「酒税法」の第3条7号にまとめられています。

それによれば、ビールとは

  • イ)麦芽、ホップ、および水を原料として発酵させたもの
  • ロ)麦芽、ホップ、水及び米その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの。ただし、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が、麦芽の十分の五を超えないものに限る。

とされています。

政令で定める「物品」とは、トウモロコシから作ったコーンスターチなどのでんぷん類です。国によっては伝統的なビールにハーブなどが使われているものがありますが、日本の法律ではビールとは違うお酒として扱われます。
法律の点から見るといろいろとややこしいところがありますが、ひとまずビールとは「麦を発酵させて作るお酒」といえば間違いはないでしょう。

ビールの原料

ビールの原料として欠かせないのが、麦芽、ホップ、水です。これら原料の質の高さが、ビールの品質を左右します。まずはこの3つについて解説をしていきましょう。

麦芽

モルト

ビールに使われる麦は大麦ですが、どんな種類でもよいというわけではなく、いくつかの特徴が必要とされます。

まず、大粒で大きさが均一であり、発芽する条件にばらつきがないこと。そして、でんぷんやエキスの割合が高く、発酵の際に邪魔になるたんぱく質が少ないこと。最後にでんぷんを糖に変える酵素が多く、発酵しやすいことです。

日本ではビールを作るための麦には、これらの特徴を備えた二条大麦と呼ばれる種類が使われています。二条大麦は穂の中で左右両サイドの列だけが実をつける種類で、麦茶などに使われる六条大麦とは別の物です。

この大麦の実を適度な温度と湿度の中に置き、発芽させたものが麦芽(モルト)です。麦が発芽すると、でんぷんを糖に変える酵素が出てきます。これを利用し、アルコールの元になる糖を作るのです。

発芽したばかりの麦芽は緑麦芽(グリーンモルト)と呼ばれており、青臭く使えない上、放っておくと成長して苗になってしまいます。グリーンモルトに熱を加えて乾燥させることで成長を止めると、ビールの原料である麦芽が出来上がります。

麦芽の種類

麦芽はビールの主原料であるため、原料になる麦の品種、そして麦を麦芽にする際の加工方法の違いにより、出来上がるビールの性質が大きく異なったものになってきます。主なモルトの種類には、以下のような物があります。

名前特徴
ペールモルト低温で時間をかけて乾かした麦芽。ペールとは「(色が)薄い」という意味です。
あっさりした味を持ち、多くのビールのベースとなっています。
ウィンナーモルトペールモルトよりも高温で乾かした麦芽。
ビールに赤みがかかった色と、ナッツのような味わいを与えます。
カラメルモルト麦芽に水を含ませてから乾燥させる麦芽。
甘みのある味わいを持ちます。
チョコレートモルトウィンナーモルトよりも高温で長い時間乾かした麦芽。チョコレートのような色合いと、香ばしい味わいです。
ブラックモルト高温で焦がした麦芽。
これが使われたビールは黒くなり、コーヒーやカラメルに似た濃い味を持つようになります。
ウィートモルト(小麦モルト)小麦の麦芽。大麦の麦芽とともに使われます。
作られたビールは色が薄く、甘くフルーティーな味になります。

同じ種類の麦から作った麦芽でも、乾燥させる時間が違うだけで、見た目も味も全く違うビールが出来上がります。
ただ、黒いビールでもブラックモルトだけで作るのではなく、使用する麦芽のほとんどはペールモルトです。ブラックモルトは10%程度しか使われていないのですが、それだけでビールの色が黒くなり、濃厚な味わいが生まれます。

ビールにおいて、麦芽は紛れもなく最も重要な原料です。麦芽がなくてはビールは作れませんし、麦芽の種類によってビールの味や香りが決まってしまうからです。
しかし、麦だけで作ったビールは製品にするには不十分で、ホップの働きが必要になります。

次はホップがどのようなもので、どのような使い方をされ、どんな効果をビールにもたらすのかを見て行きましょう。

ホップ

ホップ

大麦と並んで欠かせない材料がホップです。このホップにより、ビールに特有の苦みと風味が生まれるのです。中世になるまでホップの使用はあまり一般的ではなかったようですが、ホップを入れると風味と味のバランスが非常によくなり、さらに保存性が増すことが判明してからは欠かせない材料となりました。

ホップは麻科のつる植物で、和名を「セイヨウカラハナソウ(西洋唐花草)」といいます。多年生植物であり、一度植えると10〜30年ほど利用することが可能です。この植物はイチョウなどと同じようにオス株とメス株が分かれており、夏が近づくとメス株には毬花(まりはな)、あるいは球花(本物の花ではない)という、松かさのような物がなります。この毬花がビールに使われるホップで、中に入っている「ルプリン」という黄色い粒がビールに苦みと香りを与えます。

材料として使われるのは受精していない毬花で、当然ながらメス株にしかならないので、ホップ園ではオス株はほとんど栽培されていません。ホップは8月中旬から下旬ごろになると成熟して黄金色になり、ビールのために収穫されます。

ちなみに、この毬花をそのまま乾燥させたものを「コーンホップ」、乾燥してから圧縮した物を「プラグ」、乾燥・粉砕し、押し固めて成形した物を「ペレット」と呼びます。

ホップの効能と種類

ホップによってもたらされる効能はいくつもあり、どれもビールにとって欠かせない物ばかりです。

まず、特有の芳香と苦みを加え、麦芽の甘みとのバランスが取れた味に仕上げること。そして、雑味や濁りの元になるたんぱく質を取り除くこと。さらに、雑菌の繁殖を抑え、ビールを長持ちさせることです。また、ホップが入ることで、ビールの泡立ちが良くなる効果も出ます。
ホップの栽培は生産国ごとに様々な品種があり、ビールに個性を出すために一役買っています。

国名品種特徴
日本信州早生さわやかな香り
イギリスケント、ファグル、ゴールディンクスハーブ、紅茶のような香り
ドイツ、チェコハラタウ、テトナング、ザーツスパイシーな香り
アメリカキャスケード、ウィラメット柑橘系のフルーティーな香り

ホップは北緯35~55度のやや寒冷な地域で行われています。世界最大のホップ生産国はドイツで、2位はアメリカです。このほか、オーストラリア、イギリス、チェコ、アルゼンチン、中国なども主要生産国です。日本では北海道と東北地方が主な産地となっています。

水

ビールを作るのに使う水は、当然ながらクリーンな水であることが第一条件ですが、同時に適度なミネラル分が含まれていなくてはなりません。
ミネラル分が不足していると、以下のような害が出てきます。

要素影響
カルシウム不足透明度が下がる
亜鉛、銅、マグネシウム不足酵母が増えず、アルコールが出来ない
ナトリウム不足味に深みがなくなる
硫酸カルシウム不足ホップの苦味が出過ぎる

また、水は弱酸性であることが望ましいとされています。
麦芽に含まれている酵素は弱酸性でないとうまく機能せず、弱酸性でないとでんぷんを糖に変えたり、雑味や濁りの元になるたんぱく質を分解したりすることが出来なくなってしまうからです。ただ、麦芽から出る成分が水を弱酸性にしてくれるので、中性の水を使っても大抵は大丈夫なようです。
それでもうまくいかない場合は、硫酸カルシウムを追加してやることにより、水の状態を調整します。この作業によって味が悪くなることはないので、ご心配なく。

必要な条件さえ満たしていれば、水は硬水でも軟水でも良いビールが出来上がります。
傾向としては、軟水で作られるビールは色が薄くて淡麗な味わいになり、逆に硬水では、色が濃く、濃厚な味わいのビールとなります。

副原料

いくつかのビールでは、製造する際に麦とホップ以外に、米やコーンスターチ、ハーブといった物を用いることがあります。こうした原料は「副原料」と呼ばれており、特定の銘柄のビールにとって無くてはならない個性を出すための添加物といえる存在です。
副原料として使われることが多いのは、でんぷん質の多い穀物類です。こうした穀物類はビール中の窒素分の量を調整し、風味を良くする効果があります。

副原料の中で代表的な物は米で、ビールに風味やコクを持たせ、味をまろやかにする役目があります。このほか、トウモロコシの胚芽を取り除いて粗挽きしたコーングリッツ、トウモロコシから作ったでんぷんであるコーンスターチなども使用されています。
伝統的なヨーロッパのビールには、コリアンダーのようなハーブ類や、オレンジピールやベリー類などの果物を使うものもあります。これらも副原料の一種といえるでしょう。

次回は、これらの原料を使ってビールがどのように製造されるのかを紹介していきます。

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