“天使の分け前”~熟成年数100年のウィスキーが無い理由とは?~【前編】

“天使の分け前”~熟成年数100年のウィスキーが無い理由とは?~【前編】

天使の分け前1

出典元:Matthew Ragan

ウィスキーの琥珀色はどうやってつく?

ウィスキーといえば、深い味わいと琥珀色が印象的です。ウィスキーは基本的にビールと同じく、大麦(モルト)から作られる酒ですので、あの色は醸造段階でつくと思っている方もいるかもしれませんが、実は蒸留した段階でウィスキーは無色透明だったりします。

その昔、ウィスキーは蒸留しただけで出荷されていましたし、現在でも無色透明な“ホワイトウィスキー”は実在します。ウィスキー色と独特の香りや味は、蒸留した後の樽につめて寝かせる“熟成”という工程でつくのです。

熟成工程は偶然生まれた

別の記事※1でも紹介しましたが、ウィスキーの熟成工程が生まれたのは偶然です。その昔、イギリスでは戦争の費用を確保するため、政府が高額な酒税を課しました。酒造業者は税金から逃れるためにウィスキーの密造を始めたのですが、密造したウィスキーを隠すためにワイン樽に詰めて土に埋めたのです。

それがたまたま掘り起こすのが遅くなってしまい、数年間放置された樽詰めのウィスキーを取り出してみたら、それまで無色透明だったウィスキーは、琥珀色の芳醇な香りをもつ液体に変わっていました。それまでのウィスキーは、ただ単に強いアルコールのワイルドな酒ですが、そんな偶然の産物で現在の味わい深い酒に変わったわけです。その後イギリスでは酒税は大幅に減税され、樽熟成されたウィスキーがスタンダードになっていきました。

※1昔は無色透明だった?!独立騒動で話題のスコットランドが生んだスコッチ・ウィスキーとは?

天使の分け前2

出典元:Internet Archive Book Images

ウィスキーの琥珀色の正体は?

樽熟成でウィスキーに色や香りがつくのは、樽の原料である木に含まれている成分が、ウィスキーに含まれる高いアルコールによって溶け出すからです。溶け出す成分は様々ですが、大部分は「タンニン」と言われる植物由来の化合物なんですが、タンニンという固有の物質ではありません。

タンニンというのは、植物の中で生成される化合物の総称で、お茶に含まれる「カテキン」もタンニンの一種です。ウィスキーに含まれるタンニンは、「ウィスキータンニン」と呼ばれている複数の化合物です。具体的には「ヒドロキシメチル」とか、「エポキシメタノ」などですが、そこまで化学的なモノの話をすると、味も素っ気もなくなってしまいます。ウィスキーは樽から沁み出す成分によって、複雑な味わいと香りがつく…といった漠然とした理解でいいでしょう。

天使が飲んでいる?木の樽に詰められたウィスキーは自然に減っていく

木の樽に酒を詰めて熟成させるというのは、ウィスキーが初めてではありません。ウィスキーが登場するずっと以前からワインは樽詰めで貯槽・熟成されていました。ですからその頃から知られていたとは思いますが、木の樽に酒を詰めて保存すると、だんだん中身が減っていくのです。

木の樽は液体は通しませんが、材質は木ですので気体は通します。ですから樽の中身が自然に気化したモノは、木の繊維を通って蒸発してしまうわけです。

そんな原理に気がつかなかった昔の酒職人は、

「天使が樽の中の酒を勝手に飲んでいるのさ」

といって、樽の中の酒が自然に減る現象を「天使の分け前」とか、「天使の取り分」と呼びました。

=後編に続く=

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